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Mitsui Integrated Report2024三井物産 統合報告書2024
中期経営計画2026 進捗2026年 3月期事業計画
2026年3月期第1四半期 決算短信〔IFRS〕(連結)
2026年3月期第1四半期決算説明会資料
2014年3月期決算説明会資料
中期経営計画2023の進捗 及び2023年3月期事業計画
今回取り上げるのは、日本の3大商社と称される大手商社の三井物産株式会社です。
事業内容
それではまずは事業内容から見ていきましょう(統合報告書2024 P53参照)。
三井物産の事業セグメントはその他を除くと以下の7つです。
②エネルギー:原油・LNG・シェールガスなどの権益保有やトレーディングなど
③機械・インフラ:電力やガス配給に海運、自動車や建機販売に船舶や航空機などを取り扱う事業
④化学品: 石油化学製品、無機製品、農業資材、タンクターミナルなどを取り扱う事業
⑤鉄鋼製品:鋼材や自動車部品などを取り扱う事業
⑥生活産業:食料品やファッション、ヘルスケア商品などを取り扱う事業
⑦次世代・機能推進:アセットマネジメントやベンチャー投資、不動産など
⑧その他
最大手の商社として、多様な分野への投資を行っています(統合報告書2024 P2参照)。
アメリカでのトラックの管理台数が1位、アジアでの病院事業所の病床数が1位など、海外でも大きなシェアを持つ事業があります。そして国内でもアンモニアの輸入シェアが6割、食料品ではトウモロコシが20%、コーヒーが35%、菜種が40%、大豆が20%など大きなシェアを持つ製品を多数保有しています。
2025年3月期のセグメント別の当期利益は以下の通りです(中期経営計画2026 進捗 P21参照)。
②エネルギー:1735億円
③機械・インフラ:2329億円
④化学品:759億円
⑤鉄鋼製品:132億円
⑥生活産業:537億円
⑦次世代・機能推進:873億円
⑧その他:▲216億円
金属資源やエネルギー、機械・インフラ事業の規模が特に大きいことが分かります。事業内容が多岐にわたっていますが、今回は、現在の主力であるこの3事業についてのみ、もう少し詳しく見ていきます。
金属資源セグメントで大規模に取り扱っているのは鉄鉱石であり、その他には銅や原料炭も大きな規模があります(中期経営計画2026 進捗P33参照)。
現在の利益としては圧倒的に大きいのがオーストラリアの鉄鉱石事業です(中期経営計画2026 進捗 P51参照)。鉄鉱石相場の影響を特に受けやすく、銅や原料炭相場の影響も受ける事業です。
エネルギーセグメントは、天然ガス・LNGと原油を主に取り扱っていて、特に天然ガス・LNGの規模が大きいです。天然ガス・LNG相場の影響を特に受けやすく、原油相場の影響も一定程度受ける事業です(中期経営計画2026 進捗 P35参照)。
機械・インフラセグメントは、電力や社会インフラを取り扱うプロジェクト本部、自動車や建機などを取り扱うモビリティ第一本部の規模が大きいです(統合報告書2024 P56、中期経営計画2026 進捗 P52資料参照)。
電力や自動車や建機といった需要に左右されるものの、長期案件が多く、比較的安定した業績が期待できる事業です。機械・インフラセグメントは安定した事業ですが、企業の事業全体としては、資源相場に連動しやすい面もあります。
また、大手商社はどういった投資を行っているかも重要です。2024年3月期時点での事業別の純資産の内訳は以下の通りです(統合報告書2024 P53参照)。
②エネルギー:20%
③機械・インフラ:22%
④化学品:12%
⑤鉄鋼製品:5%
⑥生活産業:17%
⑦次世代・機能推進:11%
投資自体は比較的分散しています。現在は資源系の事業の利益率が高くなっています。
また、国別の投資としては規模が大きい国は以下の通りです(統合報告書2024 P62参照)。
米国:1.7兆円
豪州:1.5兆円
ブラジル:1.2兆円
主力である日本市場や、大きな鉄鉱石の鉱山や炭鉱を持つオーストラリア、銅の鉱山を持つ南米なども投資の規模が大きいです。

三井物産 2026年3月期 1Q決算説明会資料より
さらにアメリカにも積極的な投資を行っていて、アメリカでは国内完結型の事業を中心に事業を展開しています。
次いで規模が大きいのは、輸出型の事業です。アメリカ市場ではトランプ関税の影響が想定されますが、受ける影響が小さいと考えられる事業構成です。
海外投資の規模が大きく、資源系の利益の規模が大きいことが分かりました。つまり市況による影響が大きいということです。
市況変動の影響は以下の通りです(中期経営計画2026 進捗 P32参照)。
・米国ガス(1mmBtu1ドル):19億円
・鉄鉱石(1トン1ドル):31億円
・原料炭(1トン1ドル):3億円
・銅(1トン100ドル):5億円
・豪ドル:21億円
米ドルや豪ドル、原油に米国ガス、鉄鉱石などの影響を特に受けやすいので、相場の変動には注目です。
業績の推移
事業内容が分かったところで、続いて業績の推移を見ていきましょう。
2014年3月期~2024年3月期までの純利益の推移を見ていくと2021年3月期までは、増減ありつつですが、3000億円~4000億円ほどで推移しています(統合報告書2024 P29参照)。それが2022年3月期には9147億円となり過去最高益を更新し、それ以降は2024年3月期まで1兆円を超えて推移しています(中期経営計画2023の進捗 P9参照)。
2022年3月期に業績が大きく伸びた要因は、資源系事業の拡大です。コロナ禍からの経済活動が再開する一方でロシアとウクライナの問題や海運が停滞した影響などもあり、資源相場は急騰しました。それに伴って金属資源事業やエネルギー事業が大幅増益となっています(中期経営計画2023の進捗 P9参照)。
とはいえ、拡大の要因はそれだけではありません。2014年3月期と2024年3月期のセグメント別の純利益を比較してみると以下の通りです(2014年3月期決算説明資料 P6、中期経営計画2026 進捗 P21参照)。
②エネルギー:1970億円→2817億円
③機械・インフラ:266億円→2487億円
④化学品:158億円→392億円
⑤鉄鋼製品:181億円→112億円
⑥生活産業:192億円→941億円
⑦次世代・機能推進:49億円→873億円
資源相場の高騰によって資源系事業が利益を大きく伸ばしたことも影響していますが、機械・インフラ、化学品、生活産業、次世代・機能推進といった資源系以外の製品も取り扱っている事業でも大きな成長を見せています。資源相場の高騰に加えて事業規模の拡大も影響しているということです(統合報告書2024 P1参照)。
現在も資源系の事業の規模が大きいことは間違いありませんが、以前は資源系事業が大半を占めていて、資源相場による影響が非常に大きな企業でしたが、現在は生活産業や次世代・機能推進等の事業規模も拡大しています。以前と比べて安定した業績が期待できるようになったということが分かります。

三井物産 中期経営計画2026 進捗 資料より

三井物産 2026年3月期 1Q決算説明会資料より
さらに、近年の好業績によって投資余力も拡大する中で2024年3月期~2026年3月期までの中計では2.3兆円もの成長投資を計画しています。これまで投資を進めてきたのは、LNG権益や鉄鉱石、アンモニアなどで、さらに米国での中古トラックのオークション事業やインドの金属リサイクル、ベトナムのガス田、鶏やエビといったタンパク質、ヘルスケア事業などへも投資を進めています。
近年の好調によって生まれた投資余力を積極的に再投資しているため、さらなる事業規模の拡大が期待されます。

三井物産 2026年3月期 1Q決算説明会資料より
ちなみに、2024年3月期~2026年3月期までの中計では既存事業の強化で+700億円、効率化や構造改革で+400億円、新規事業で+600億円で計1700億円の基礎収益力の拡大を進めています。

三井物産 2026年3月期 1Q決算説明会資料より
収益貢献が期待されている新規案件も複数あり、今後も事業規模拡大などで以前と比べても高水準での業績が続くことが期待されます。現在の三井物産は資源系事業の規模が大きいため、相場変動に業績が左右されやすい企業ではあるものの、事業規模が拡大しているため、以前と比べて高水準の業績が期待されます。
ここまでのまとめ
・三井物産株式会社は日本の3大商社の一つで、7つの事業セグメントを展開(例:金属資源、エネルギー、機械・インフラなど)
・海外市場でのシェアが大きく、特にアメリカとアジアでの存在感が強い
・2025年3月期の利益は金属資源、エネルギー、機械・インフラが主力で、鉄鉱石と天然ガス・LNGが特に重要
・2022年には当期利益9147億円を記録し、資源系事業の拡大が要因
・2024年から2026年にかけて2.3兆円の成長投資を計画し、新規事業や効率化を進めている
・市況変動に影響を受けやすいが、事業規模の拡大により安定した業績が期待される
直近の業績
それでは最後に直近の2026年3月期 第1四半期の業績を見ていきましょう(決算短信より)。
親会社の所有者に帰属する四半期利益:1916億円(▲30.6%)
基礎営業キャッシュフロー:2163億円(+5億円)(※2026年3月期第1四半期決算資料P4参照)
減収減益となりつつも、基礎営業キャッシュフローは若干ながらも増加していますし、一定の堅調な状況は続いていることが分かります。
とはいえ、減益となっていますから、もう少し詳しくその要因を見ていきましょう(2026年3月期第1四半期決算資料 P11参照)。
②エネルギー:▲3億円
③機械・インフラ:▲753億円
④化学品:+127億円
⑤鉄鋼製品:+5億円
⑥生活産業:+8億円
⑦次世代・機能推進:+41億円
⑧その他:+20億円
金属資源事業や機械・インフラ事業が大幅減益になっていることが分かります。金属資源事業が減益となった主要因は、鉄鉱石や原料炭価格の下落で、相場変動の影響を強く受けています(2026年3月期第1四半期決算資料 P31参照)。
機械・インフラ事業が大幅減益となった要因は前期の事業売却益による反動です。ですので、基礎営業キャッシュフローは+117億円で事業面は堅調です(2026年3月期第1四半期決算資料 P33参照)。
これまで見てきた通りで、相場変動や資産の入れ替えによって業績が左右されやすいため、利益面は大幅減益となっていましたが、基礎営業キャッシュフローは若干のプラスで、事業規模が拡大する中で一定の堅調な状況は続いていると考えられます。
そんな中で、2026年3月期の通期予想では1303億円ほどの減益を見込んでいます(2026年3月期第1四半期決算資料 P25参照)。
資源系事業が市況の悪化によって減益になることに加えて、資産リサイクルの反動で、機械インフラ事業や次世代・機能推進事業が減益になる見込みです。
相場変動や資産リサイクルによる悪化を通期でも見込んでいます。さらに、トランプ関税などもあり、為替や資源相場の変動も大きな状況が続いていますから、その動向にも注意が必要そうですが、それでも7700億円ほどの純利益を見込んでいて、事業規模の拡大によって以前と比べれば高水準の利益は期待されます。
※「日興フロッギー版」では、解説のポイントがわかりやすいようにマーカーを付けています。
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※「日興フロッギー版」では、画像による説明は決算発表会資料に集約し、それ以外は、データの参照元を明記しています。
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※「日興フロッギー版」では、「事業内容と業績のポイント」について「まとめ」を追記しています。