iPS細胞が実用化段階 国内申請相次ぎ再生医療へ道

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難病を治す切り札となる可能性を秘めた「iPS細胞」。そのiPS細胞を使った再生医療がいよいよ実用化段階に入ろうとしています。iPS細胞由来の薬の開発に取り組む住友化学を中心に各社の動向をご紹介します。

住友化学グループ、iPS細胞でパーキンソン病患者の機能改善

住友化学と子会社の住友ファーマは再生・細胞医薬の研究開発を手掛ける合弁会社「RACTHERA(ラクセラ)」を設立し、2025年2月に事業を開始。そのRACTHERAと住友ファーマが8月、iPS細胞を使ったパーキンソン病治療薬「ラグネプロセル」の国内の製造販売承認を申請したと発表しました。

パーキンソン病は運動能力に関わる神経伝達物質「ドーパミン」を作る脳内の神経細胞が減少し、運動機能が衰える病気です。現在、パーキンソン病はドーパミンの材料となる物質を薬として飲むことで初期段階の症状は抑えられますが、病気が進行するとドーパミンを作る神経細胞そのものが無くなり、薬の効果が得られなくなるという問題があります。その失われた細胞を補う役目を果たすのがiPS細胞です。

ラグネプロセルの効果を評価する臨床試験(治験)では、iPS細胞で作った神経細胞をパーキンソン病患者の脳内に移植するとドーパミンを作っていることなどが確認されたといいます。同薬は厚生労働省の先駆け審査指定を受け、優先審査の対象品目となっており、早ければ2025年度中にも承認される可能性があります。

iPS細胞とは

あらゆる種類の細胞に変化する人工多能性幹細胞
京都大学の山中伸弥教授のグループが約20年前にiPS細胞の作製に成功
功績が認められて山中氏は2012年にノーベル生理学・医学賞を受賞

相次ぐ承認申請、クオリプスはiPS細胞由来の心筋細胞シート

iPS細胞の実用化につながる承認申請や研究開発の進展が相次いでいます。

バイオベンチャーのクオリプスは4月、iPS細胞から作成した心筋細胞シートの製造販売の承認を申請しました。

iPS心筋細胞シートは、心筋梗塞や狭心症などの虚血性心疾患の治療に使う再生医療製品。

同製品が承認されれば、これまで心臓移植や人工心臓などでしか治療できなかった重症の心不全患者にとって新たな治療法を提供することになりそうです。

創薬ベンチャーのケイファーマについては3月、脊髄損傷の患者に対しiPS細胞を移植する治療法について、共同研究相手の慶応義塾大学と連携して臨床試験(治験)を準備していると報じられました。

iPS細胞の活用はがん治療にも広がりを見せようとしています。

武田薬品工業と米バイオテクノロジーのアロイ・セラピューティクスは2024年11月、iPS細胞を使ったがん免疫療法の開発でライセンス契約を結びました。武田薬品は京都大学iPS細胞研究所(CiRA)と共同で免疫細胞を使ってがん細胞を攻撃する治療法にiPS細胞を応用するそうです。

アステラス製薬はロボットやAI(人工知能)を活用した独自の全自動の細胞創薬システムを開発しています。細胞医療は研究者の熟練した手技や経験に基づく判断に頼るところが大きく、人手と手間、コストがかかるのが課題です。ロボット・AIを活用して安定的で効率的な製造技術が確立できれば、iPS細胞の活用をさらに後押ししそうです。

iPS細胞を使った薬や製品の実現で、これまで治療効果が十分でなかった疾患にも治療の選択肢は広がろうとしています。