株式市場で「核融合発電」関連株が買われています。QUICKが選定する関連株の平均上昇率は4.4%と、東証株価指数(TOPIX、1.8%高)を上回りました(9月12日までの5営業日の騰落)。株価が上昇した5銘柄とその背景について解説します!
自民党総裁選で候補者の政策に焦点
核融合発電の関連株が上昇したきっかけは、自由民主党総裁選の候補者と政策に絡む思惑です。
9月7日、石破茂首相が自民党総裁を辞任すると表明し、自民党総裁選へ向けた動きが活発化。前後に実施された「次の首相」を問う各種メディアの世論調査では、昨年の総裁選の決選投票で石破首相と接戦を演じた高市早苗前経済安全保障相が他候補を抑えてトップに立つ例が目立ちました。
高市氏は核融合発電にかかわる国家戦略の策定に関わり、メディアでも積極的に発言するなど、実用化に向けた政策推進の旗振り役を担っています。
核融合発電は、原子核同士を融合させ、その際に発生するエネルギーを利用した発電方法です。ウランやプルトニウムを使用する従来の原子力発電とは異なり、燃料となる重水素や三重水素は海水中に豊富に存在するうえ、放射能漏れを伴う深刻な事故のリスクが低く、安全なエネルギーとされています。そのため、「夢のエネルギー」と称されています。
高市氏が自民党総裁に選ばれれば、核融合発電の実現が国策として加速していくという期待から関連銘柄が物色されました。

国際プロジェクトへの納入などで実績【助川電気工業】
上昇率首位の「 助川電気工業 」は、核融合炉試験装置向けのセンサーなどを手掛ける産業機器メーカーです。原子力関連機器に強みを持ち、福井県の高速増殖原型炉「もんじゅ」関連の仕事も受注してきました。
日本、EU(欧州連合)、アメリカなど33ヵ国が参加し、人類初の核融合実験炉を実現しようとする超大型国際プロジェクト「ITER(イーター)」に協力企業として参加してきた実績があります。
22年には、核融合発電の早期実現を目指して日本と欧州が共同建設する実験設備「JT-60SA」へ納入する容器内センサの製作を受注しました。
核融合関連製品の増加などを追い風に、25年9月期第3四半期決算(24年10月~25年6月)の営業利益は前年同期比36.7%増えました。25年9月期の業績予想も上方修正しています。
「レーザー方式」の技術でリード【浜松ホトニクス】
上昇率2位の「 浜松ホトニクス 」は、強力なレーザーを核燃料に照射し瞬間的に核融合反応を起こす「レーザー方式」での核融合発電に使用する技術を開発している企業です。
7月には、スタートアップ企業「EX-Fusion」と共に、レーザーを高頻度で燃料に照射する実験に成功したと発表。8月には、従来の2倍以上の光エネルギー密度でのレーザー出力に成功しました。
実用化に向けて開発を加速させており、レーザー核融合分野における同社の技術的優位性を世界に示しています。
線材やコイル製造での強みも
「 三菱重工業 」は「ITER」計画向けに、プラズマを封じ込める役割を果たすトロイダル磁場コイルや、漏れ出た熱など原子炉外に排出するダイバータの製造を手掛けています。
「 フジクラ 」は核融合炉向けの「高温超電導線材」の製造に強みを持ち、需要増を見越して超電導事業に計116億円規模の投資・予算枠の確保をしたと発表しました。
「 三菱電機 」は「三菱重工業」と協力して「ITER」計画向けコイルを製造しているほか、「JT-60SA」の増力工事にも参画しています。
いずれの企業も核融合発電の実現には不可欠となる技術を持っており、国策として推進されれば成長に追い風となりそうです。
「夢のエネルギー」実現へ官民で動き
核融合発電の実現を目指す官民での取り組みは近年急速な進展を見せています。政府は、2025年6月、23年に策定した「フュージョンエネルギー・イノベーション戦略」を改定し、これまで具体的に言及していなかった実証運転の開始時期について、「世界に先駆けた30年代の実証をめざす」と明文化しました。
民間での取り組みも活発化していて、24年3月には、核融合発電の実現を目指す数十社が参画する「一般社団法人フュージョンエネルギー産業協議会(J-Fusion)」が設立されました。
今はまだ実用段階にあるとは言えない核融合発電ですが、AI(人工知能)の普及による電力需要の増加や、地球温暖化の進行に伴う温室効果ガスを排出しないクリーンなエネルギーの必要性から「夢のエネルギー」実現は急務とも言え、国際的な競争はますます激しくなりそうです。
当面のエネルギー政策は原子力発電所の再稼働や新設が軸となりそうですが(『電力確保の手段として存在感高まる 「原子力発電」関連株が上昇』)、 人類課題の解決に寄与する長期的なテーマとして、今後も注目されていきそうです。