電線(ワイヤ)を使わずに電力を送るワイヤレス給電の開発が加速しています。私たちの生活に多くのデジタル機器が次々と登場し、給電の確保が重要度を増しています。光技術を活用し、電気を供給するレーザワイヤレス給電の開発に取り組むNTTを中心に各社の取り組みをご紹介します。
NTT・三菱重、レーザ光給電で世界最高効率を実現
「 NTT 」は9月、「 三菱重工業 」とレーザ光を用いたワイヤレス給電の実証実験で世界最高効率を達成したと発表しました。
レーザ光給電は、光源から発射されたレーザ光を電気に変換する受光素子を利用する給電技術です。受光パネルの光電変換素子によって光エネルギーから電気エネルギーに変換して給電します。
光給電は光を細いビームで遠方まで効率よく伝送できる特徴があり、キロメートル単位の遠距離の給電が可能になります。一方、大気の影響で強度が乱れやすいため給電効率の低さが課題でした。
ワイヤレス給電とは
・電線や電源に接続しなくても電気を供給できる仕組み。
・主にマイクロ波やレーザ光を使う。
・人体の影響などへの影響が不透明なほか、給電効率などに課題。
今回の実験では、風や熱の影響が大きい地上約1メートルの環境で1キロメートル先に15%の効率で電力を供給できたことが画期的でした。NTTが持つビームを均一にする「ビーム整形技術」と、三菱重の受け取るレーザ光の強度を均一にする受光技術を組み合わせたことで高効率給電を実現しました。
高効率かつ安定した長距離エネルギーの伝送が可能になれば、電力ケーブルの敷設が困難だった離島や被災地での給電に加え、飛行中の無人航空機(ドローン)に対し地上から給電することも可能になります。将来的には、静止衛星から地上にレーザで電力を送る「宇宙太陽光発電」への応用なども期待されます。
ワイヤレス給電の実用化に向けて技術開発が加速
ワイヤレス給電の実用化に向けた動きは各分野で進んでいます。
エレクトロニクス商社の「 丸文 」は9月、イスラエルのWi-Charge Ltd(ワイチャージ社)と代理店契約を締結し、同社の赤外線レーザーワイヤレス給電システム「AirCord™」の取り扱いを開始したと発表しました。
AirCord™は10メートルの範囲内にある受電器に対して100ミリワット(mW)の電力を給電することが可能で、工場や物流倉庫内の電子タグ、店舗内の棚札、デジタルサイネージなどへの活用が想定されています。電源配線工事が不要になることで機器の導入が容易になるほか、レイアウトの変更なども簡単にできるようになるメリットがあります。
「 本田技研工業 」は、社内外のアイデアによる事業創出を支援する「IGNITIONプログラム」で、レーザー無線給電システムを開発するSolaNika(東京・渋谷)が提案した「レーザー光によるドローン飛行中無線給電システム」を支援対象に採択。最大500万円の活動資金を援助し、「バッテリー切れによる飛行時間の制約」という課題解決を支援します。
ワイヤレス給電の核心部品となるコイルなどの受動部品を提供する材料メーカーの開発も加速しています。
「 大日本印刷 」は、電気自動車(EV)向けワイヤレス給電装置に使われる薄型・軽量なシート型のコイルを開発しています。
「 住友電気工業 」では小型・薄型アンテナのワイヤレス給電モジュールを開発しています。メガネなどのウェアラブル機器や医療計測機器を用途として想定しています。
ワイヤレス給電の技術開発が進めば、電力インフラが根幹から見直され、私たちの日常風景も大きく変わることになりそうです。