軍事×AI――。通常兵器や人海戦術を用いて攻撃する従来の戦争と異なり、現代は諜報活動やサイバー攻撃など多様な手法を複雑に組み合わせる「ハイブリッド戦」が主流になっています。それを可能にしたのが人工知能(AI)など先進技術の発展です。米国防のAIデータ解析に深く関わる米パランティア・テクノロジーズを中心に各社の動向をご紹介します。
パランティア、世界的な軍事費拡大が追い風
米陸軍は7月末、パランティア(PLTR)と今後10年間で最大100億ドルに上るソフトウエアの調達契約を結んだと発表しました。これまで複数に分かれていたソフトウエアの調達先をパランティアに一本化するもので、米陸軍は最先端のデータ統合やAI分析ツールへの迅速なアクセスが可能になります。
パランティアは2003年設立のデータ解析プラットフォーム企業です。01年の米同時多発テロを契機に米諜報機関向けにテロ対策支援ソフトウエアを開発したのが始まりで、軍事情報のリアルタイム解析などを通じた意思決定支援システムを米政府などに提供しています。
国防向けAIソリューションの提供で20年近い実績を誇り、防衛テックの中心的企業としての地位を築くパランティアの成長を後押しするのは世界的な軍事支出の拡大です。
スウェーデンのストックホルム国際平和研究所(SIPRI)によると、24年の世界の軍事支出は2.7兆ドルと過去最高を記録しました。国連の試算によると、軍事支出は35年までに最大6.6兆ドルに拡大するとみています。
ロシア・ウクライナ戦争や中東情勢の緊迫が続くなか、各国政府は軍事活動にAIや無人航空機(ドローン)、ロボットなど先進技術の導入を進めており、防衛分野のソフト・AIシフトがパランティアの存在感を高める要因になっています。
パランティアは防衛分野で培ったAI技術を民間分野にも提供しており、事業基盤の拡大を進めています。
19年には「 SOMPOホールディングス 」と日本で合弁会社を設立し、SOMPOが保有するリアルデータとパランティアのAIデータ解析技術を組み合わせたサービスを展開。今年8月には複数年にわたる業務提携の拡大を発表しました。
「現代戦の特徴」とは
・航空・海上・着上陸侵攻、戦車・ミサイルなど通常兵器、人海戦術
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・弾道・巡航ミサイルなど精密誘導弾による大規模攻撃
・サイバー、電磁波、無人航空機(ドローン)などによる非物理的攻撃
・諜報活動、偽旗作戦、情報戦、SNSなど非軍事的手法による攻撃
防衛テック企業、米国防総省との契約相次ぐ
軍事支出の拡大は多くの米防衛テック関連企業の追い風になっており、実際、今年に入り米国防総省(現米戦争省)などとの契約が相次いでいます。
米航空・防衛大手のアール・ティー・エックス(RTX)は9月、米陸軍と17億ドル規模の地上配備型防空ミサイル防衛レーダー(LTAMDS)の納入契約を結んだと発表しました。LTAMDSは全方位(360度)探知を可能とする高度なシステムを搭載した次世代型レーダーで、上空から降りかかるさまざまな脅威に対し優れた性能を発揮します。
米防衛大手のL3ハリス・テクノロジーズ(LHX)は5月、世界中の通信機器を保護する次世代型セキュリティープロセッサーの開発契約を米政府から受注したと発表。サイバー攻撃の脅威から兵器システムを守ります。6月には米国防総省との間でドローンによる脅威を無力化する「VAMPIREシステム」の追加供給契約も締結しました。
軍事・防衛分野に特化したAIデータ分析を手がけるビッグベアー・アイ・ホールディングス(BBAI)は3月、米国防総省と統合参謀本部議長の戦力管理局向けAIプラットフォームの提供で1320万ドルの契約を獲得したと発表しました。
米防衛サービスのレイドス・ホールディングス(LDOS)は、米国防総省の情報機関である国家安全保障局(NSA)と最大3.9億ドルに上る「SIGINT(通信や無線を監視・傍受する諜報活動)」機能を含むサービス提供契約を結びました。軍・諜報機関向けにカスタマイズした独自のSIGINTソリューションを提供し、国家の安全保障に貢献します。
軍事とAIの融合は戦争による問題解決ではなく、戦争を未然に防ぐツールの1つとしての役割を果たすことも期待されます。防衛テックの活躍の余地はまだまだありそうです。