トランプ「航空外交」 大型受注誘導で米製造業に活力

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第2次トランプ政権が全世界の国・地域に課した高関税措置。これを交渉材料に2国間協議に持ち込み、自国の利益を最大化しようとする「トランプディール」が活発になっています。その恩恵を受けている代表例が航空機産業です。航空最大手であるボーイング(BA)を中心に各社の取り組みをご紹介します。

ボーイング、トランプ外交に合わせ複数の大型受注獲得

ボーイング(BA)は今年5月、カタール航空から最大210機の受注を獲得したと発表しました。カタール航空にとっては過去最大規模の発注案件となります。

発表はトランプ米大統領のカタール訪問に合わせて行われ、トランプ氏とカタールのタミム首長の立ち合いのもと、両社は契約書にサインしました。

トランプ氏による「航空外交」はボーイングに大きな恩恵をもたらしています。

日米貿易交渉で日本に課す相互関税率を予定していた25%から15%に引き下げることで合意した7月、トランプ氏は「日本はボーイング社製航空機100機の購入を含む、米国製民間航空機の購入を約束した」とのコメントを発表しました。

8月には韓国の李在明大統領がホワイトハウスでトランプ氏と初会談したのに合わせて、大韓航空がボーイング機を103機購入する意向を明らかにしました。

2025年のボーイングの航空機受注件数は9月末時点で821機に達し、24年通期の実績(569機)をすでに上回りました。最大のライバルである欧州エアバスの受注件数は610機(24年通期は878機)にとどまっており、このままいけば21年以来4年ぶりにボーイングの受注件数がエアバスを逆転することになります。

トランプディールは「米製造業の復活」「貿易不均衡の是正」を主眼に置き、高関税政策により米製造業の競争力強化や製造拠点の国内回帰、雇用拡大を目指しています。

トランプディールとは

・第2次トランプ政権で「米国第一主義(アメリカ・ファースト)」を旗印に「米製造業の復活」「貿易不均衡の是正」を宣言
・世界の各国・地域に対し高い関税を設定
・高関税を交渉材料に二国間協議で相手国から対米輸入の拡大や米国内投資などのディールを獲得

実際、カタール航空との契約締結で、ボーイングは「米国で約40万人の雇用を創出する」とコメント。さらに、米貿易赤字を是正する他国の対処法として、同社のオルトバーグ最高経営責任者(CEO)は7月に「航空機の大量発注以外に良い方法を考えられない」と発言。結果として、受注環境は非常に良好との見通しを示しています。業績への追い風は当面続きそうです。

ボーイング効果、航空機部品などの周辺銘柄に波及へ

ボーイングの大型受注獲得の効果は航空機部品などの周辺銘柄にも波及しそうです。

米航空機エンジンメーカーのGEエアロスペース(GE)は、カタール航空や大韓航空 との間で大型のエンジン供給や保守契約を締結しました。8月には香港キャセイパシフィック航空からボーイング機に搭載するエンジンの供給契約を獲得しました。

パーカー・ハネフィン(PH)は、航空機向けに油圧システムや制御システムを提供しています。8月に公表した26年6月期通期の業績見通しでは、航空分野の売上高成長率が全事業で最も大きく、成長をけん引すると見込んでいます。

事業基盤の拡大に動く企業もあります。

機体を軽量化する炭素繊維複合材などを手がける米へクセル(HXL)は9月、航空機関連部品などを販売する複数の企業を傘下に収め、米大陸の流通ネットワークを大幅に拡大すると発表しました。先進複合材料を迅速に供給する体制を整えます。

航空機向け電子部品などを提供する米トランスダイム・グループ(TDG)は10月、米航空・防衛大手アール・ティー・エックス(RTX)の一部門で、航空機向け高度センサーの設計などを手がけるシモンズ・プレシジョン・プロダクツの7億6500万ドルでの買収が完了したと発表しました。日本円で1000億円を超える大型買収で収益成長を目指します。

ランプディールが事業機会に直結する航空機産業の視界は良好のようです。