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個人投資家様向け会社説明会(2025年3月14日)
2024年度 決算実績・2025年度 経営計画説明資料
統合レポート2025
統合レポート2024
主な国別投融資保証残高(2025年3月末)
2025年度 第1四半期決算説明資料
(補足)セグメント別 成長期待領域
今回取り上げるのは、日本の3大商社とも呼ばれる大手商社の内の1つである伊藤忠商事株式会社です。
事業内容
それでは早速事業内容から見ていきましょう(個人投資家様向け会社説明会 P8参照)。
②機械カンパニー:自動車や建設機械の販売、航空機や船舶関連事業、発電所や水、環境、プラント関連のインフラ提供など
③金属カンパニー:鉄鉱石が主力で、その他にも石炭や非鉄金属などの資源開発やトレーディングなど
④エネルギー・化学品カンパニー:原油・石油・LNGなどエネルギーのトレーディング、化学製品や電力のトレーディング、さらに再エネ関連の事業も展開
⑤食料カンパニー:飼料や大豆、穀物などの食料品原料や食品の製造加工、中間流通など、アジア青果ではDoleなどを抱える
⑥住生活カンパニー:建材や木材、タイヤや天然ゴム、パルプや紙などの取り扱いや物流、不動産開発なども展開
⑦情報・金融カンパニー:ITソリューション、通信、金融、保険など
⑧第8カンパニー:ファミリーマート事業やファミリーマートでの消費者接点を活用した事業
多様な事業を展開していることが分かります。
2022~2024年度平均のセグメント別の基礎収益構成は以下の通りです(統合レポート2025 P9参照)。
②機械カンパニー:15.8%
③金属カンパニー:27.7%
④エネルギー・化学品カンパニー:11.0%
⑤食料カンパニー:7.7%
⑥住生活カンパニー:8.7%
⑦情報・金融カンパニー:9.2%
⑧第8カンパニー:3.7%
⑨その他:12.9%
金属カンパニーの規模が最大ですが、かなり分散した構成となっていることが分かります。事業内容も多岐にわたり、その構成も分散しています。

伊藤忠商事 個人投資家向け会社説明会資料より
そもそも総合商社は、様々な商品のトレーディングと多様な事業投資を行うことを主軸としています。このため、伊藤忠商事の事業も多岐にわたります。
2025年3月期時点では、185の子会社と78の持分法適用会社を抱えています(2024年度 決算実績・2025年度 経営計画説明資料 P54参照)。これらの会社の黒字会社比率は91.6%と、多くの投資先や事業で利益を出せていることが分かります。
伊藤忠商事は、ハンズオン経営という買収や投資した企業の経営に深く関与するスタイルを取っています。グループ企業各社との連携を活用することで、多くの企業の収益力を向上させ、黒字企業が増えています(2024年度 決算実績・2025年度 経営計画説明資料 P20参照)。
まず資源系事業と非資源系事業で伊藤忠商事を分解すると、2022~2024年度平均の基礎収益では以下の通りです(統合レポート2025 P9参照)。
②非資源系事業:75%
基礎収益の7割以上が非資源系事業によるものです。3大商社の中では、三菱商事や三井物産と比較すると、伊藤忠商事は非資源系の事業規模が圧倒的に大きく、資源相場に頼らず比較的安定した業績が期待できます。
資源系事業は3割弱を占めていて、その中で規模が大きいのが金属事業で、主力製品は鉄鉱石です(2024年度 決算実績・2025年度 経営計画説明資料 P33参照)。
鉄鉱石市場には業績が左右されやすいと言えます。
非資源系事業において現在の多くの事業の起点となっているのがファミリーマートです。

伊藤忠商事 個人投資家向け会社説明会資料より
ファミリーマートの取引量は非常に大きく、そこで活用される多様な製品を提供していますし、顧客接点を基点として、多様な事業を展開しています。さらに、そこで取れるデータ量も多く、マーケットインでの事業拡大を進めています。

伊藤忠商事 個人投資家向け会社説明会資料より
大規模な小売店を持つ強みを活かして、非資源系事業の拡大を進めています。

伊藤忠商事 個人投資家向け会社説明会資料より
また、統合報告書によると各事業の2024年度の基礎収益と国内事業の損益比率は以下の通りです。
①繊維カンパニー:283億円
②機械カンパニー:1325億円
③金属カンパニー:1784億円
④エネルギー・化学品カンパニー:746億円
⑤食料カンパニー:731億円
⑥住生活カンパニー:547億円
⑦情報・金融カンパニー:822億円
⑧第8カンパニー:346億円
①繊維カンパニー: 80%
②機械カンパニー: 60%
③金属カンパニー: 10%
④エネルギー・化学品カンパニー: 70%
⑤食料カンパニー: 80%
⑥住生活カンパニー: 50%
⑦情報・金融カンパニー: 90%
⑧第8カンパニー: 100%
最も基礎収益の規模が大きい金属カンパニーは、海外での資源開発が主力のため、国内比率は低いですが、多くの事業が国内をメインに稼いでいます。
とはいえ、金属事業の資源開発だけでなく、海外で一定程度稼いでいます。
海外で強みを持つのは、中国を中心とするアジア市場で、投資残高の多くが中国です(主な国別投融資保証残高(2025年3月末)参照)。
2015年には伊藤忠商事とタイのチャロン・ポカパングループと共同で、中国の大手国有コングロマリット企業であるCITICに出資し、伊藤忠商事は6000億円を投じました。このように多額の投資をし、CITICと多様な分野での協業を進めることでアジア市場へも積極展開しています。
この投資に関しては、2018年には想定通りの成果を見せられず、1400億円もの減損を出すなど、成功したとは言えない状況でした。しかし多額の投資によって、アジアの消費財分野にも大きな事業規模を持っています。
その他にも、北米での建材関連や建機関連、自動車関連事業や再エネ発電事業などの電力事業も一定の規模があり、グローバルで稼いでいます。
国内の非資源系事業が主力ではあるものの、海外事業や資源系事業も一定の規模があるため市況による影響も受けます。
影響は以下の通りです(2024年度 決算実績・2025年度 経営計画説明資料 P16参照)。
原油(+1ドル/バレル):+1.3億円
鉄鉱石(+1ドル/トン):+20億円
為替相場や金属事業の主力である鉄鉱石相場の影響を比較的受けやすいことが分かります。近年は相場が大きく変動する中で、為替や鉄鉱石が数百億円単位の影響を与える状況となっています。こういった相場の動向にも注目です。
業績の推移
2010年度以降の業績の推移を見ていきましょう。

伊藤忠商事 個人投資家向け会社説明会資料より
純利益の推移を見ると、増減はあるものの着実に拡大を続け、2021年度に急拡大した後、2023年度まで8000億円を超える高水準の業績が続いています。2010年代前半に3000億円前後で推移していた当時から、大きな成長を遂げています。
これは、非資源系事業の拡大による影響が大きいです。2010年代前半に2000億円ほどだった非資源系事業が着実に成長を続け、2021年度以降は6000億円前後で推移しています。
さらに、資源系事業もそれ以前は数百億円~千数百億円ほどでしたが、2021年度以降は2000億円ほどを稼いでいます。
事業の成長には各事業で様々な要因がありますが、非資源事業へ着実に投資を積み重ねてきました。各事業の事業規模や資産規模も拡大して、業績は好調です(統合レポート2024 P100、101参照)。
さらに、2021年度には資源価格の高騰によって資源事業も好調となり、それ以降も円安などが追い風となり業績を押し上げています。
そして、2025年3月期はさらに増益となり、過去最高益を達成するなど好調が続いています(2024年度 決算実績・2025年度 経営計画説明資料 P3参照)。
とはいえ最高益には一過性要因が影響し、基礎収益に関しては、▲190億円と一定の停滞を見せています。毎期大規模な投資とその回収を行う大手商社は、こうした一過性要因によって業績が左右されやすいです。その影響がポジティブに出たことで最高益となりました。基礎収益が停滞した要因は資源価格の下落で、資源事業が▲395億円でした。非資源事業は+265億円と拡大が続いたものの、それでは補いきれずに基礎収益は減益となっています(2024年度 決算実績・2025年度 経営計画説明資料 P5参照)。
非資源系事業に関しては着実な拡大が続いていますから、今後も安定して高水準の業績が期待されます。
ここまでのまとめ
・セグメントは、繊維、機械、金属、エネルギー・化学品、食料、住生活、情報・金融、第8、その他
・国内の非資源系事業で安定的に稼ぐ
・多くの事業の起点となっているのはファミリーマート
・資源系事業は3割弱を占め、その中で規模が大きい金属事業の主力製品は鉄鉱石
・非資源系事業の拡大に資源系事業の好調も加わり近年は好調
・着実に投資が積み上がり、事業規模自体が拡大し業績の拡大に繋がっている
直近の業績
直近の2026年3月期の第1四半期の業績を見ていきましょう(2025年度 第1四半期決算説明資料 P3参照)。
基礎収益:1810億円(▲10.4%)
基礎収益は減少していますが、純利益は増益で、第1四半期としては過去最高益を達成し、堅調な状況が続いています。
基礎収益に関しても、資源価格の下落や為替の影響を除けば前年並みとなっていますし、非資源分野は+55億円と非資源系分野の拡大も続き、事業面は堅調な状況が続いていることが分かります(2025年度 第1四半期決算説明資料 P5参照)。

伊藤忠商事 2025年度第1四半期決算説明資料より
そういった中で、通期予想に関しても増益で、過去最高益を達成することを見込んでいます。為替が円高に推移する中で▲500億円や、米国関税の影響などで景気後退リスク▲400億円などを見込みますが、既存事業の成長や新規事業の貢献などでそれを上回る効果を見込み、一過性要因もポジティブに働く計画です。

伊藤忠商事 2025年度第1四半期決算説明資料より
事業の拡大と事業の売却益などで好調を見込んでいます。非資源系事業の着実な拡大が続いていますから、今後も堅調な拡大が期待されます。
成長領域
最後に、伊藤忠商事が各事業の成長領域としているのが、以下の分野です((補足)セグメント別 成長期待領域 P2参照)。
・デサントを軸にスポーツ分野
・シューズ分野
・直営強化を通じた中核ブランド
②機械カンパニー
・再エネを含む北米電力事業、船舶・航空
・自動車・建機分野における国内外メーカーとの協業
③金属カンパニー
・鉄鉱石、原料炭などの優良権益獲得
・還元鉄関連、アルミ、水素、アンモニア等の脱炭素社会実現への取組み
④エネルギー・化学品カンパニー
・中核事業のビジネス拡大や系統用大型蓄電池
⑤食料カンパニー
・食品流通領域や高付加価値原料等
⑥住生活カンパニー
・北米建材関連や官民連携事業
⑦情報・金融カンパニー
・CTC(主要子会社)を軸としてデジタルバリューチェーン強化
・リテール金融・保険分野の海外展開
・宇宙・ヘルスケア・サーキュラーエコノミーなど
⑧第8カンパニー
・ファミリーマートの強化とその基盤を活用した新規ビジネスの創出・拡大
・新たな生活消費関連ビジネスの創出
こういった分野での拡大が続いていくのかにも注目です。
※「日興フロッギー版」では、解説のポイントが分かりやすいようにマーカーを付けています。
※「日興フロッギー版」では、解説に使用したデータの参照元を記載しています。
※「日興フロッギー版」では、画像による説明は決算発表会資料に集約し、それ以外は、データの参照元を明記しています。
※「日興フロッギー版」では、用語解説を追加しています。
※「日興フロッギー版」では、「事業内容と業績のポイント」について「まとめ」を追記しています。