サステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)で輝く企業【前編】

未来を変える!サステナブル投資/ 日興フロッギー編集部岡田 丈

2025年夏、日本の歴代最高気温は何度も塗り替えられました。

また、世界に目を向けても、欧州各地では森林火災等が発生、北欧フィンランドでは22日連続で30度以上の暑さとなり史上最長を記録しました。今回は、こうした気候変動をはじめとする社会全体の課題に対して取り組みを行っている企業に着目していきます。

2023年、国連のアントニオ・グテーレス事務総長が「地球沸騰化」と警鐘しましたが、事態はより深刻化しているのではないでしょうか。

我々は今、未来への分岐点にいるのかもしれません。

20年後・30年後の将来に今を振り返ったときに「気候変動が激しさを増しはじめた時」と映るのか、それとも「抑え込めた時」と称されるのかーー気候変動対策は今この時代を生きる我々に課された課題と言えるでしょう。

社会全体のサステナビリティと企業の成長の両立を目指す優れた企業

企業も社会を構成する一つの主体です。

社会の中で企業が活動をしていく上で、気候変動をはじめとする社会課題は企業活動を行う上でときにリスクや制限となりえます。しかし、そうした社会課題や社会から求められるニーズを企業を成長させる機会ととらえ、そのために必要な経営・事業変革を行い、長期的かつ持続的な企業価値向上を図っていく取り組みを「サステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)」と言います。

このSXに関して先進的な取り組みを行う企業を、経済産業省及び東京証券取引所は「SX銘柄」として選定しています。

本年5月に「SX銘柄2025」として下記13銘柄が選出・公表されました。今回は、上記の中でもSX銘柄2024・SX銘柄2025と2年連続で選定された銘柄について、具体的な取り組み例を見ていきます。

味の素

うま味調味料やスープ、コーヒー、冷凍食品など多岐にわたる商品で知られる「 味の素 」は、たんぱく質を構成する「アミノ酸」を基盤とした事業を展開しています。特に、アミノ酸の働きに徹底的にこだわった研究プロセスや、アミノ酸の持つ様々な機能や特性を製品やサービスとして社会に提供することを同社では「アミノサイエンス®」と総称しています。

競争優位性のあるこの「アミノサイエンス®」を軸に、「持続可能な地球環境の実現」等の社会的課題を自社の重要テーマとして位置づけ、長期的な視点での経営戦略を組み立てています。例えば、現在同社の主力事業の一つとなった電子材料事業や医薬中間体・原薬の製造サービスおよび開発サービスを提供する事業は、この観点から生まれた事業で、こうした経営戦略等が評価され受賞となりました

アミノサイエンス®を活かした事業展開

KDDI

携帯電話などの各種通信サービスなどを手掛ける大手電気通信事業者の「 KDDI 」は、自社の強みである通信技術を中心に、社会の持続的成長と自社の企業価値の向上を目指しています。

同社の重要課題の一つ「通信を核としたイノベーションの推進」では、5G通信をベースとし、データドリブン(収集・蓄積したデータに基づいた意思決定)とAI(人工知能)を使った新しい技術を社会に取り入れることを推進しています。そこでは同社が使命としている「つなぐチカラ」を進化させて、新しいアイデアやビジネスチャンスの創出に挑戦しています。この取り組みの例としては、米国スペースX社が開発したStarlinkと同社の通信網を活用することで、スマートフォンが衛星と直接つながり、空が見える状況であれば圏外エリアでも通信をすることが可能になる「au Starlink Direct」のサービス提供が挙げられます。

こうした取り組みをはじめとした「自社だけでは不可能なイノベーションを生み出すために、パートナーとの関係強化によって新たな付加価値を生み出そう」というビジネスモデルや戦略が評価され、SX銘柄として選出されました。

au Starlink Direct「空がみえれば、どこでもつながる」

KDDIとスペースX社Starlinkの衛星直接通信サービス

第一三共

大手製薬会社の「 第一三共 」は、いまだ有効な治療方法や薬剤がない医療へのニーズ(アンメットメディカルニーズ)への対応をはじめとして多様な要請を社会から受けています。

同社は、世界中の大きな社会課題であるがん領域(オンコロジー)を成長戦略の柱に据え、グローバル化や専門人材の育成を進め、同社が経営ビジョンに掲げているグローバルヘルスケアカンパニーの実現を目指しています。

特に、同社が最も強みを持つがん領域において、がん患者やそのご家族・介護者が抱える課題・困りごとの解決に向け、総合的なサポートやケアを提供することで患者のウェルビーイング(心身ともに健康的で社会的にも良い状態)に貢献することを目指しています。

同社には、本業に根差したサステナビリティ経営が随所に行き渡り、高い業績を上げているとして、SX銘柄として選出されました。

同社製品の一例(抗悪性腫瘍剤及び抗凝固剤)

ダイキン工業

「空気で答えを出す会社」のキャッチフレーズでお馴染みの「 ダイキン工業 」は、世界で唯一空調と冷媒の両方を手掛ける総合空調メーカーです。2050年における長期的な目標「環境ビジョン2050」を策定し、それを実現するために5年ごとに戦略経営計画「FUSION」を策定しています。

本業と密接に関係する気候変動を最重要課題と認識し、経営戦略の中に温室効果ガス(GHG)排出量削減に向けた具体的な目標を組み込みつつ企業の成長と社会のサステナビリティに取り組んでいる姿勢がSX銘柄として評価されました。

同社は空調メーカーとして培った独自の高度な技術を有しています。2050年のカーボンニュートラルを目指すにあたって、「ヒートポンプ」「インバータ」「冷媒制御技術」などの高度なコア技術を基盤に、環境課題の解決への貢献と、事業拡大を両立していくとしています。

CO2排出量削減に貢献するヒートポンプ技術

ブリヂストン

タイヤメーカーの「 ブリヂストン 」は、世界のタイヤ市場においてトップクラスのシェアを誇ります。「最高の品質で社会に貢献」をミッションに掲げ、世界におけるモビリティの進化を支えるタイヤを目指しています。製造過程におけるCO2削減や生産過程の省エネ化、持続可能な天然ゴムのサプライチェーンマネジメント等において優れた取り組みを行っているとしてSX銘柄に選定されました。

同社ではサステナブルな次世代タイヤとして、空気の充填がいらないことからパンクしないタイヤと呼ばれる「AirFree®(エアフリー)」の技術開発に取り組んでいます。このAirFree®に再生可能な樹脂を使っている等の点から「資源の効率的な活用とサーキュラーエコノミーの実現にも貢献する」とされています。また、「地域社会のモビリティを支える」ことをミッションに、社会実装を見据えて地方自治体と連携した実証実験を行っています。将来に向けて「グリーンスローモビリティ」への装着先を一つとして、高齢化や過疎化、労働力不足といった課題に直面している地域社会を足元から支えるべく挑戦を続けています。

空気充填が不要な次世代タイヤ“Air Free®”

グリーンスローモビリティ:バスタイプの「AirFree」の装着イメージ

明治ホールディングス

食品事業や医薬品事業を行う「 明治ホールディングス 」は、創業以来100年以上にわたり、時代ごとに変化する社会が抱える栄養や健康に関する課題を、食と薬にまつわるさまざまなイノベーションによって解決してきました。

同社は、経営目標の最上位に「明治ROESG®」という指標を導入しています。これは稼ぐ力を示す「ROE(事業・財務価値の指標)」と「ESG(サステナビリティ)」の両方の目標達成を定めた指標です。

最重要経営目標「明治ROESG®」を軸に、これからの100年を目指す姿に向けてサステナビリティを重視した実行戦略が遂行されているとしてSX銘柄として選出されました。

同社がサステナビリティ戦略を推進していく上で、重視している1つに「自然との共生」があります。森林を再生する農法であるアグロフォレストリー(アグリーカルチャー(農業)とフォレスト(森林)をかけ合わせた造語)で栽培されたカカオ豆を使用したチョコレート製品(アグロフォレストリーミルクチョコレート)の製造や、プラスチックからバイオマスプラスチックへの切り替えといったことを取り組んでいます。

※「ROESG」は一橋大学教授・伊藤邦雄氏が開発した経営指標で、同氏の商標です。

アグロフォレストリーミルクチョコレート

アグロフォレストリーとは、アグリカルチャーとフォレストリーを掛け合わせた造語

以上、2年連続でSX銘柄に選出された企業の取り組みをご紹介しました。

ほんの一部しか触れることができませんでしたが、各企業は多様な社会課題に向けて様々な取り組みを行っています。なお、SX銘柄に選出される企業は情報開示が充実しているので、ご興味があれば各企業のホームページをご覧ください。

次回は、今回ご紹介した企業以外のSX2025銘柄に関してご案内します。

なお、日興フロッギーでは過去にもSXを取り上げています。こちらの記事もご覧ください。

サステナブル投資は未来への投資
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