九州の「おいしい銘柄」を発掘!

世界は株式会社でできている/ 本城 直季日興フロッギー編集部白根ゆたんぽ

熊本地震を乗り越え、がんばる九州企業の記事を執筆中のタカシ。インバウンド客を取り込み、事業を伸ばす会社を紹介した前回に続き、今回は「おいしい銘柄」に注目する。九州の国際色あふれる豊かな食文化から始まり、いまや全国区となった上場企業を、タカシが次々と解説!
「地の利を生かせ! 九州インバウンド銘柄」を読む

ユイ

九州の食ビジネスに詳しくなったって話、くわしく聞かせて。九州ってどの地域も、食材が豊かよね。牛豚鳥、それぞれ名産があるし、馬刺しやもつ鍋もおいしい。海が近くてお魚も豊富だし、料理にあう焼酎も、最高!

タカシ

冒頭からテンション高いな~(笑)。食材が豊かなことに加えて、九州は古くから海外との交流が盛んだった。欧州やアジアの影響を受けて独自の食文化が生まれた、面白い地域だよ。

江戸時代に長崎の出島で貿易をしたのは、オランダとポルトガルよね。アジアとも交流があったの?

当時は中国とも貿易が行われていた。人の往来も盛んで、長崎市の人口6万人に対して、中国人が1万人近く住んでいたらしい。いまでも長崎には大きな中華街があって、風俗、文化への影響もあちこちに見て取れる。たとえば、名物「長崎ちゃんぽん」を考案したのは、中国人。明治時代に中華料理店『四海樓』の店主・陳平順が、お腹をすかせた中国人留学生に栄養たっぷりの麺を食べさせようと作っていたメニューが、ちゃんぽんのルーツなんだって。

へえー。長崎ちゃんぽんは、祖国を離れた若者への「親心」から生まれたんだ。時々、無性に食べたくなって「 リンガーハット 」に行くけど、おいしいよね。

「リンガーハット」はもちろん、長崎の会社だ。現在の会長兼CEO・米濱和英氏のお兄さんが、1962年に創業。とんかつ屋から始めて事業を大きくし、1974年に地元名物の長崎ちゃんぽんに注目。これがヒットし、1970年代の外食産業の急成長の波に乗り、一気に出店を重ねた。長崎ちゃんぽんを全国区の食べ物にした立役者といえるね。

リンガーハットって、「国産野菜100%」を掲げているわよね。「野菜たっぷりちゃんぽん」はヘルシーな気がして、つい頼んじゃう。

デフレ下の2009年、外食産業が価格競争を繰り広げる中で、リンガーハットが値上げに踏み切ったのは話題になった。そのときの必殺技が、「国産野菜100%」。値上げする代わりに、材料を安全・安心な国産野菜だけにすると発表したんだ。戦略は大当たり。価格が上がったにもかかわらず客数が増え、「おいしくて健康的」というイメージで他社との差別化も図れた。

九州に行ったら、こってりした豚骨ラーメンも食べたいな。

豚骨ラーメンのパイオニアといえば、福岡に本社を置く「 マルタイ 」。看板商品の「棒ラーメン」は、九州では知らない人はいない、60年近くもの歴史を持つロングセラー商品だ。マルタイは、九州名物を次々と家庭で食べられる商品にしている。「長崎皿うどん」の即席麺、「博多長浜ラーメン」「高菜ラーメン」のカップ麺など、バリエーション豊かだよ。

聞いてるだけで、よだれが……。

ちょっとユイ、汚いなあ(笑)。地元のソウルフードともいえるマルタイの棒ラーメンは、海外でも好調だ。日本食ブームでラーメン店がアジアに出て行き、豚骨ラーメンの知名度が上がったのを追い風に、香港や台湾で売上を伸ばしているよ。

はじまりは、一軒のお店から

九州一の繁華街といえば、福岡県福岡市の天神エリア。ここに本社を置くのが、ドレッシングで有名な「 ピエトロ 」だ。

あの、おじさんの顔がついたドレッシング! ちょっと高いけどすごくおいしい。ピエトロも上場企業なのね。

はじまりは、創業者の村田邦彦氏が天神にオープンした、1軒の小さなレストラン。パスタといえばナポリタンという時代に、明太子や高菜を使ったパスタを出して、行列ができるお店になった。ゆでたての麺にもこだわっていたのだけど、気の短い博多っ子は「出てくるのが遅い!」と言う(笑)。そこで、ゆで時間を待つ間に手作りドレッシングをかけたサラダを出したら、大好評。「これなら子どもが野菜を食べる」「ドレッシングをわけてほしい」という人が大勢出て来た。そこから、いまや全国区で人気になったピエトロ・ドレッシングが誕生したんだ。

顧客をいかに喜ばせるか。その一心で工夫した結果、思わぬところにビジネス・チャンスがあったのね。

顧客を想う社風は、いまもぶれてない。ドレッシングのベースとなる玉ねぎは国産100%で、生産工程では効率よりも味を重視。工場を「大きな厨房」と呼び、年間約2200万本のドレッシングを売るようになった今も、巨大タンクでなく寸胴鍋で調理しているんだ。最近はパスタソース、スープ、冷凍のピザやドリアなどに商材を広げ、「蟹と蟹みその本格トマトソース」といったヒット商品も出ている。規模が大きくなっても味にこだわり、丁寧な姿勢を崩さないところが、ファンに支持される理由なんだな。

何気なく使っていたドレッシングだけど、見直したわ。

「塩こしょう」の偉大なイノベーション

1軒の店から始まった上場企業といえば、福岡に本社を置く「 ダイショー 」も忘れちゃいけない。野菜炒めに欠かせない、「味・塩こしょう」を作ってる会社だね。

あの、筒状のぱかっと開くやつ! よく使うな~。もやし炒めに塩こしょう振るだけで、一品できちゃうもんね。

あれ? なんかユイの料理レベルがひどそう……。

ダイショーは何のお店から始まったの?

創業者の金澤俊輔氏が営んでいたのは、焼き肉屋。そこで使っていた自家製のタレが評判になり、商売になると思って起業したんだ。主力製品となる「焼肉一番」を売り出し、次なる商品を探していたときに、肉屋が惣菜用の肉に塩、こしょうを使って味付けをしているのが目に入った。「一緒にできれば、楽なのに」と考えた金澤氏は、独自で研究を開始。塩、こしょう、うまみ成分などの黄金比率を見つけ出し、「味・塩こしょう」をつくり上げたんだ。これが、ありそうでなかった調味料として主婦に大うけ。1968年に発売されて以来、家庭料理に欠かせない調味料として、50年近く売れ続けるロングセラー商品となっている。

小さな気づきを見逃さなかったことで、大きなイノベーションが生まれた。それが、ダイショーを上場にまで導くパワーになったのね。塩こしょう、あなどれない商材だわ。

もちろん、新しい試みも行っている。寒くなるとスーパーで見かける「鍋スープ」を最初に手掛けたのはダイショーで、いまではすっかり定番商品だ。これからもユニークな商品開発で、市場をひっぱってほしいね。

料理人の血を受け継いだ、弁当事業

もう1つ、佐世保で創業し、いまは福岡に本社を置く「 プレナス 」の話をしよう。持ち帰り弁当トップシェアの「ほっともっと」や、定食チェーン「やよい軒」を展開する企業だ。プレナスの創業者である塩井末幸氏は、食に縁が深い家に生まれた。祖父の塩井民次郎氏は、1886年、東京に当時としては珍しい西洋料理店「彌生軒(やよいけん)」を開業した人物。有名店で、お客さんとして勝海舟ら、政府のお偉いさんも大勢いたらしいよ。

「彌生軒」って、もしかして……?

そう、いまの「やよい軒」は祖父の名店へのオマージュでもあるんだ。塩井氏の父も料理人で、戦中は将校の食事調理の任を与えられたくらいの実力者。戦争が終わって家族は佐世保に引き揚げ、その地で塩井氏がプレナスを創業。料理人の子孫が、時代に合わせて持ち帰り弁当で事業を伸ばしたのが面白い。プレナスは「日常食の提供」を掲げ、いまや年間約3億食を提供する会社になっている。

共働き家庭が増える中、お弁当や定食のニーズはさらに増えそうね。

国内のニーズをつかみつつ、海外展開も積極的だ。タイでは「やよい軒」をなんと160店舗も展開。そのほかシンガポール、オーストラリア、台湾などに進出し、2016年にはアメリカとフィリピンに「やよい軒」1号店がオープンした。

日本の日常食が、世界に広がっているのね。私も、近所のほっともっとはよく使っていて、常連よ。

あの、もしかしてユイって、あまり料理しないの?

うん。面倒だし。めったに作らない。

そ、そうなんだ。しまった、意外な一面を知ってしまった……。

今回のテーマで取り上げた上場企業

リンガーハット
マルタイ
ピエトロ
ダイショー
プレナス

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