生物の遺伝情報を自在に書き換えるゲノム編集技術が注目を集めています。ゲノム編集の特徴を活用することで、食品などの品種改良や病気の治療などに役立つと期待されています。
ミドリムシの品種改良にゲノム編集技術を活用するユーグレナを中心に各社の取り組みをご紹介します。
ユーグレナ、国産のゲノム編集技術を導入
「 ユーグレナ 」は今年4月、国内のゲノム編集技術を使ってミドリムシの品種改良に成功したと発表しました。
これまでは海外の編集技術を使っていたため、特許料や許諾条件の不透明さにより産業利用しにくい課題がありました。国産技術の導入で、品種改良したミドリムシの実用化に向けた道が開けてきました。
諸説ありますが、ゲノムは遺伝子(gene)と全体(-ome)を組み合わせた造語といわれており、その名の通り生物の持つ遺伝情報のすべてを指します。
ゲノム編集では改変したい遺伝情報を持つDNAをハサミの役割を果たす酵素(ハサミ酵素)で切断し、突然変異を人為的に起こします。
DNAには本来、切れた部分を元通りに直す仕組みがありますが、まれに修復ミスで突然変異が起こります。ゲノム編集はこの現象を利用し、DNAの持つ遺伝情報を書き換えます。
ゲノム編集とは
・生物の遺伝子情報「ゲノム」を人為的に書き換えること
・特定の遺伝子をハサミの役割をする酵素で切断し、突然変異を起こす
・食品の品種改良などによる食糧問題解決のほか、医療など様々な分野での活用に期待
ユーグレナは2022年、理化学研究所との共同研究でミドリムシを効率的に回収する技術を開発しました。
ミドリムシは細胞の表面に生える糸状の突起「べん毛(もう)」を使って水中を泳ぎ回ります。この遊泳ミドリムシを回収するには多額の生産コストがかかっていましたが、ゲノム編集技術の活用でべん毛のない遊泳不全ミドリムシの作出に成功。
生産コストを下げる技術と国産ゲノム編集技術の活用で、ミドリムシの産業利用の場が広がりそうです。
食品分野では実用化、ゲノム編集で筋肉増量のマダイ
ゲノム編集技術は食品分野で実用化が進んでいます。
「 NTT 」は2023年、ゲノム編集による魚の品種改良を手掛ける京都大学発のスタートアップ企業リージョナルフィッシュと魚の陸上養殖事業を立ち上げました。リージョナルフィッシュは、ゲノム編集で肉付きを約1.2倍に増やしたマダイを開発し、世界で初めてゲノム編集動物食品として販売しました。
そのリージョナルフィッシュには回転ずしチェーン「スシロー」を展開する「 FOOD & LIFE COMPANIES(F&LC) 」も出資しています。F&LCはゲノム編集技術を持つスタートアップ企業プラチナバイオと稚魚のDNAを解析し、環境変化や病気などに強い魚種の開発にも取り組んでいます。
「 キユーピー 」は、卵アレルギーを起こす成分の1つである「オボムコイド」をゲノム編集で除去することで、低アレルギーの卵を開発しています。
「 住友ファーマ 」はゲノム編集iPS細胞を用いた再生医療の開発を手掛けるiXgene(アイエックスジーン)などとゲノム編集したiPS細胞を使った悪性脳腫瘍治療薬の共同研究に取り組んでいます。ゲノム編集は遺伝子由来の病気の治療でも応用が期待されます。
生物の特定の性質や機能を強化・排除するゲノム編集は受精卵への臨床応用など倫理的な問題と向き合う必要もありますが、私たちの社会の課題を解消する有力なツールとして期待されています。