生活習慣病を克服 治療薬の需要拡大で開発加速

フォーカス!押さえておきたいテーマと企業(米株編)/ QUICK

「肥満大国」の1つとされる米国。肥満は糖尿病などの生活習慣病と密接な関係にあり、その治療薬の需要は世界規模で拡大しています。肥満症や糖尿病の治療薬を開発する製薬大手イーライリリーを中心に各社の動向をご紹介します。

イーライリリー、「マンジャロ」をインドなど世界展開

世界保健機関(WHO)は今年9月、イーライリリー(LLY)糖尿病治療薬「チルゼパチド(=マンジャロ)」を必須医薬品リストに追加したと発表しました。マンジャロには減量効果もあることから肥満症治療薬としても使われています。

必須医薬品リスト入りは、世界標準の治療薬としてWHOのお墨付きを得たことを意味します。マンジャロは米国を飛び越え、世界が射程圏に入りました。

国際糖尿病連合(IDF)によると、世界中で糖尿病を患っている成人(20~79歳)は2024年時点で5億8870万人に達し、50年には8億5250万人に増えると推計しています。IDFは糖尿病患者の50年にかけての増加数の95%は低・中所得国に集中するとみています。

こうした市場環境を受け、イーライリリーはマンジャロの世界展開に打って出ています。その1つが、世界一の人口を誇るインド市場への進出です。

イーライリリーのインド子会社は10月、インド製薬大手シプラとの間でマンジャロの流通・販売促進に関する契約を締結したと発表しました。「Yurpeak」というブランド名でマンジャロと同じ価格で発売します。

マンジャロ自体はすでに3月からインドで販売していますが、シプラ経由でセカンドブランドとしても発売します。シプラの流通網活用によりインド全土へのアクセスが可能となり、インド市場でのプレゼンス向上と相まって売り上げ規模の拡大が期待できそうです。

肥満症と糖尿病

・肥満症は体脂肪が過剰に蓄積し、健康障害を引き起こす、またはそのリスクの高い状態のこと
・肥満は血糖値を下げるホルモン(インスリン)の効き目を悪くさせ、糖尿病の発症リスクを高める
・糖尿病は薬物療法などによる徹底した体重管理(減量)などが求められる

激しさを増す糖尿病・肥満症向け医薬品の開発競争

世界的な市場拡大を背景に糖尿病や肥満症向け治療薬の開発・パイプライン獲得競争は激しさを増しています。

製薬大手ファイザー(PFE)は11月、肥満症治療薬を開発する米新興企業メッツェラを買収しました。ファイザーは経口(飲み薬)タイプの肥満症薬候補を開発していましたが4月に断念した経緯があり、肥満症薬の開発に遅れをとっていました。

メッツェラの買収を巡っては肥満症薬で先行するデンマークのノボ・ノルディスクとの買収合戦に発展していましたが、買収価格の引き上げで競り勝ちました。メッツェラの買収を契機に糖尿病・肥満症市場での追い上げを図ります。

バイオ医薬品大手アムジェン(AMGN)は、月1回投与の肥満症治療薬「マリタイド」の開発を進めています。第2相臨床試験(治験)結果を今年末までに公表する予定です。

バイオ製薬のバーテックス・ファーマシューティカルズ(VRTX)は、自己免疫の異常で血糖値を調整するインスリンが分泌されなくなる「1型糖尿病」の幹細胞治療法「ジミスレセル」を開発しています。インスリン注射が不要になるかもしれない画期的な治療法です。

バイオ企業のセプテルナ(SEPN)は5月、ノボ・ノルディスクと肥満症などの経口低分子医薬品の共同開発で提携すると発表。開発スピードを加速させます。

医薬業界でも成長期待の強い糖尿病や肥満症向けの治療薬の開発競争は今後も激しくなりそうです。