AI(人工知能)の急速な発展を背景に、AIの計算処理能力を飛躍的に向上させるツールとして量子コンピューター技術が注目されています。量子コンピューターの商用化に向けた開発を進めるIBMを中心に各社の動向をご紹介します。
金融取引で量子コンピューターの有効性確認
英金融大手HSBCホールディングス(HSBC)は9月、IBM(IBM)の技術支援のもと量子コンピューターを使い、債券取引の成立確率を3割向上させることに成功したと発表しました。
証券取引所を経由した売買が中心の株式に対し、債券は売り手と買い手が当事者同士で交渉し売買を成立させる相対取引が中心です。
この取引慣行において、量子コンピューターを従来型のコンピューターと組み合わせて社債のアルゴリズム取引の実験を行った結果、従来型のコンピューターによる手法だけで計算を行った場合よりも、相対の提示価格で取引が成立する確率を最大で34%引き上げることができました。
HSBCによると、債券取引で量子コンピューターの有効性が示されたのは初めて。今回の結果は、顧客の注文状況など大量で複雑なデータを瞬時に処理する必要がある金融取引で量子コンピューターが活用できる可能性を示しました。
IBMは11月、ネットワーク機器大手シスコシステムズ(CSCO)との間で量子コンピューターの相互接続ネットワーク設計で提携すると発表。IBMは量子技術の商用化に向けた取り組みを着々と進めています。
量子コンピューターと従来型コンピューターの違い
・従来型コンピューターは「0」と「1」のどちらかを使う「ビット」で計算し、1つ1つの処理を順番に行うため膨大な計算工程が必要
・量子コンピューターは「0」と「1」を重ねた量子ビットを使用。多くの情報を同時に扱えるため、複雑な問題を短時間で説くことが可能
・複雑な取引シミュレーションを最適化する金融、開発工程を高速化する創薬など量子技術の活躍の余地は大きいとされる
政府との関係も深まる量子コンピューター企業
量子コンピューターは、膨大な化合物から最適な組み合わせを見つける必要のある新薬開発など医療分野での活用も期待されています。
イオンキュー(IONQ)は6月、英製薬大手アストラゼネカ(AZN)などとの共同研究により、量子と従来型コンピューターを組み合わせた創薬向け計算で従来と比較して20倍高速化することに成功したと発表しました。
イオンキューは12月、カナダの再生医療商業化センターと次世代治療法の開発促進で提携したとも発表。医療分野での量子技術の活用に向け開発を進めます。
量子技術を巡っては政府と民間企業の関係も深まっています。米国防総省傘下で先端技術を研究する米国防高等研究計画局(DARPA)は、量子コンピューター技術を開発する複数の企業を規模の大小を問わず支援しています。IBMやイオンキューは支援対象企業です。
リゲッティ・コンピューティング(RGTI)は9月、超伝導量子コンピューターをネットワーク化する基盤技術の研究・開発で米空軍研究所(AFRL)から3年間で580万ドルの契約を獲得したと発表しました。
D―ウェーブ・クオンタム(QBTS)は12月、米政府向け事業部門の設立を発表。量子技術の応用に対する要望が米陸軍省の複数の幹部から寄せられたことを踏まえ、同社は国防などの課題に対処する量子アプリケーションの迅速な開発を推し進めます。
アーキット・クアンタム(ARQQ)は9月、量子コンピューターでも解読しにくい次世代のポスト量子暗号への移行プロジェクトの参画企業に選定されました。これは英国がサイバー脅威から国家を守るために設置した政府機関NCSC(国家サイバーセキュリティセンター)によるプロジェクトで、国家のセキュリティー基盤への対応技術として同社製品が評価されたことが選定理由となりました。
国を挙げた支援も追い風に量子コンピューター技術の実用化に向けた開発競争は一段と加速しそうです。
※こちらも是非ご参照ください(『量子コンピューター 高速大規模計算で スパコンを凌駕か』)。