ノーベル賞の「Treg」 ブレーキ機能活用し病気治療へ展開

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2025年のノーベル賞に日本人2人が選ばれ、両者の研究分野が改めて注目されています。受賞対象の一つである免疫の分野で医薬品の開発を進める塩野義製薬を中心に各社の動向をご紹介します。

坂口教授が制御性T細胞でノーベル賞受賞

2025年10月、免疫の過剰な働きを抑える「制御性T細胞(Treg、ティーレグ)」を発見した大阪大学の坂口志文特任教授がノーベル生理学・医学賞、「金属有機構造体(MOF)」の研究が評価された京都大学の北川進特別教授らがノーベル化学賞を受賞しました 。

Tregについては坂口氏と組む製薬会社を軸に研究が進んでおり、病気治療への活用法が見えてきています。

Tregは免疫の暴走を防ぐためのブレーキ役と言われています。体には体内に入ってきたウイルスや細菌を攻撃して体を守る「免疫」という仕組みがあります。これまではウイルスなどを過剰に攻撃し、正常な組織や細胞まで攻撃しないようどのように制御されているのか証明されていませんでしたが、坂口氏の発見により明らかになりました。

制御性T細胞(Treg)とは

・ウイルスや細菌から体を防御する免疫の中心で働く「T細胞」の一種
・免疫の暴走を防ぐためのブレーキの役目を担う
・Tregがうまく働かないと糖尿病やリウマチなどの自己免疫疾患を引き起こすことがある
・一方、がん細胞に対しては働きすぎて免疫の攻撃力を弱め、がん細胞を逃がしてしまうことがある

塩野義は坂口教授との共同研究でがん治療薬を開発

塩野義製薬 」は2014年、大阪大学の最先端医療イノベーションセンター(CoMIT)に共同研究講座を開設し、坂口氏と研究を進めてきました。そこで発見したTregの目印となる分子を標的としたがん治療薬を開発しています。

Tregには正常な細胞なども攻撃しないよう免疫の暴走を抑える働きがある一方、がん細胞に対する免疫の攻撃を抑えてしまう働きがあります。

同社ではTregを取り除くことで免疫細胞ががん細胞を攻撃する力を強める治療薬についても開発を目指しています。人間の体本来に備わっている免疫の力に働きかけるため、副作用を抑えることも期待されています。

開発薬はまず大腸がんを対象に日米で30年の承認取得を目指しており、将来的には他のがんにも対象を広げていく方針です。

ブライトパス・バイオ 」は、がんに対する免疫の攻撃を抑えるアデノシンを生み出す分子に結び付くことでその働きを抑制し、免疫のブレーキを解除する仕組みの抗体医薬を開発しています。

中外製薬が坂口氏と挑む免疫抑制を高めたTreg

Tregの免疫抑制の働きを強めることで治療につなげる医薬品の開発も進んでいます。

中外製薬 」と坂口氏の共同研究チームは25年3月、免疫抑制機能を高めたTregを作る仕組みを解明しました。1型糖尿病など免疫の過剰反応によって起きる疾患の治療技術として期待されています。

キッズウェル・バイオ 」は25年10月、グループ会社のS-Quatre(エスカトル)と東京科学大学が共同研究契約を結んだと発表しました。自己免疫疾患や臓器移植後の拒絶反応に対する根本治療の確立を目指しています。

小野薬品工業 」は23年に米国のCue Biopharma(キュー・バイオファーマ)からTregを誘導・増殖させるよう設計された二重特異性融合タンパク質に関する商業化などの権利を取得しました。自己免疫疾患や炎症性疾患の治療薬開発に取り組むとしました。

免疫で大きな働きをするTregを使った治療法は今後、医療の現場で存在感が高まっていきそうです。