前回に続き、SXを取り上げます。
まずは、SXについて、おさらいしましょう。
SXとは企業が社会課題を自社の成長機会ととらえ、そのために必要な経営・事業変革を行い、長期的かつ持続的な企業価値向上を図っていく取り組みのことです。
SXでいう企業価値向上は、環境問題の他にも、人間社会や生物多様性が持続可能であることが前提です。企業は単に利益を追求するだけでなく、持続可能な社会の実現に向けて、自らの事業活動が社会や環境に与える影響を積極的に考慮する必要があります。そのため、SXでは環境保護や社会的責任、生物多様性の維持などを、経営の中心に据えた取り組みが重要視されています。中でも優れたSX経営を行っているとして評価された企業がSX銘柄2025として選出されています。
今回の記事ではそのようなSX銘柄2025に引き続き焦点を当てて、企業の取り組みを紹介します。
アシックス
スポーツ用品の製造・販売大手の「 アシックス 」は、誰もが生涯を通して運動・スポーツに関わり、心身ともに健康で居続けられる世界の実現を目指しています。
同社は経営の重点戦略の1つとして「ブランド体験価値向上」を掲げ、顧客との直接的な接点を増やし、顧客が体験し、価値を感じてもらうためのシステム「ランニングエコシステム」を顧客へ提供しています。顧客は「OneASICS(ワンアシックス)」会員となることで、ECサイトでの購入データや日常的なランニングデータ、ランニングレース登録データなどを一元的に管理することができます。
顧客ごとにカスタマイズされたコミュニケーションを実施することで、アシックスブランドへの愛着を深め、ブランド体験価値向上に繋がっています。

ランニングエコシステム「OneASICS」の全体像
このように戦略的に知的財産の活用、知的財産と経営を一体化させた経営、社内外の関係者との対話を重視した活動等が高く評価され、SX銘柄として選出されました。
ソフトバンク
携帯電話などの移動通信サービスや、eコマース、キャッシュレス決済などを提供する日本の大手通信キャリアの「 ソフトバンク 」は、「情報革命で人々を幸せに」という経営理念の下、創業以来一貫して、情報革命を通じた人類と社会への貢献を推進しています。
同社は2023年5月、長期ビジョンとして「デジタル化社会の発展に不可欠な次世代社会インフラを提供する企業」となることを発表しました。この長期ビジョンは、各地域で生産した再生可能エネルギーを各地域のデータセンターで消費する、サステナブルな分散型のAIデータセンターの構築などを目指したものです。同社では、これを通じて「AI共存社会」を支える不可欠な存在となり、持続可能な社会の実現と企業価値の向上を目指しています。

国内最大級のAIデータセンターを目指す「北海道苫小牧AIデータセンター」
こうしたテクノロジーを競争優位性として社会的価値を創出するという価値創造ストーリーの構築などが評価され、SX銘柄として選出されました。
TDK
大手総合電子部品メーカーの「 TDK 」は、スマート社会における電子デバイスソリューションのリーディングカンパニーを目指しています。10年後のありたい姿として、長期ビジョン「TDK Transformation」を策定。社会のTransformationへの貢献と、同社自身が変革し続けていくという2つの意味が込められていて、サステナブルな未来の実現に貢献する想いを示しています。
TDKの技術は、生成AIに不可欠なデータセンター内のAIサーバーやストレージに加え、ARグラス、スマートフォン、自動運転車など、さまざまなデバイスに活用されています。これらを含む広範な市場を、TDKでは「AIエコシステム市場」と位置づけています。AIがさらに普及・活用されるには、いくつかの技術的な課題を乗り越える必要がありますが、TDKは、そうした課題に向き合い、解決につながるデバイスやシステムの開発を通じて「AIエコシステム」の成長を支えています。

TDKのAIエコシステムにおける貢献
同社は、市場全体の大きな流れや、社会変革に貢献できる電子デバイスの開発を通じて、テクノロジーの進化とサステナブルな未来への貢献を目指す形で戦略と企業理念が連動している点が評価され、SX銘柄に選定されました。
ニチレイ
冷凍食品や低温物流で国内最大手の「 ニチレイ 」は、日々私たちにおいしい瞬間を届けてくれています。創立以来、「日本の食生活を良くしたい」という志のもと、食の調達から開発、加工、生産、販売と社会全体のサプライチェーンを支える低温物流まで、食に深く関わる独自のバリューチェーンを構築し、食品企業に収まらない食のフロンティアカンパニーとしての地位を確立しています。
ニチレイは数々のロングセラーに加え、健康を意識した食品の研究開発にも取り組んでいます。「みらいくら®」は、コレステロールフリーかつ魚卵アレルゲンフリーを実現した魚卵状の人工いくらです。同商品は天然いくらとは異なり、コレステロールや魚卵アレルギーの原因物質を含まず、動物性原料も使用していません。このため、コレステロールの多い食べ物を控えている高脂血症の方や、魚卵アレルギーの方、ヴィーガン志向の方も楽しむことができます。独自の調味液で味付けし、おいしさにもこだわっています。

ロングセラーの代表商品・冷凍炒飯市場24年連続売上高1位(※)の「本格炒め炒飯®」

コレステロールフリーの人工いくら「みらいくら®」
ニチレイは、絶えず独自技術を磨き続け、常に社会が直面する課題や市場の変化に対応した商品開発を手掛け、社会課題解決とともに事業成長に繋げる施策が評価され、SX銘柄に選定されました。
良品計画
「無印良品」で知られる「 良品計画 」は、創業以来、地球環境や生産者に配慮した素材を選び、無駄を省いた「ものづくり」にこだわっています。ライフスタイルにおいても持続可能性が重視されるようになる中で、無印良品も無駄を省いた「ものづくり」にとどまらず、使い終わった商品を廃棄するのではなく、できる限り資源として循環させ、「環境負荷の低減」と「持続可能な社会の実現」の両立に向けた取り組みを進めています。
具体的には、無印良品で販売した一部の商品をリユース・リサイクルに向けて回収する「資源回収サービス」、回収した衣料品をリユース・アップサイクルし販売する「ReMUJI」、家具等を必要な期間だけレンタルできる「月額定額サービス」、そして、傷・汚れによる戻り品でも、まだ十分使える商品をお買い得な価格で販売する取り組みである「もったいない市」を展開しています。
このように、品質や製造プロセス、販売した商品を回収し再利用する等、環境・社会への良いインパクトの実現に向けてサステナビリティを重視した取り組みが行われており、これを「無印良品」というブランド価値の一環として位置づけている点がSX銘柄として評価されました。
以上でSX銘柄に選出された企業の取り組みをご紹介しました。
前回の記事でもお伝えしたように記事内で紹介した内容は、各企業の取り組みのごく一部です。各企業は多様な社会課題に向けて様々な取り組みを行っていますので、興味のある方は各企業のホームページをご確認ください。
なお、日興フロッギーでは過去にもSXについて取り上げています。それらの記事もご覧ください。