もうすぐやってくる2018年は、明治維新から150年という記念の年。大河ドラマで『西郷どん』が始まるなど、来年は「明治という時代」に関心が集まりそうだ。そんな中、九州出張を終えたタカシは、日本の産業革命に想いをはせつつ、明治創業の企業についてウンチクを語り始め……。
「九州の『おいしい銘柄』を発掘!」を読む
タカシ
九州出張では、鹿児島が印象的だったな~。2018年の「明治維新150年」に向けて、鹿児島市は5年前からカウントダウンを始めるほど、気合が入ってる。地元の人たち、盛り上がってたよ。
ユイ
大河ドラマの『西郷どん』も始まるわね。主人公を演じる鈴木亮平君、誠実そうで好みなの。楽しみ!
ああ、そっちね(笑)。明治新政府は「殖産興業」を掲げて、欧米から積極的に技術を学び、取り入れた。そうやって始まった日本の産業の近代化を支えたのが、財閥と呼ばれる資本家たちだ。特に、三井、三菱、住友の「三大財閥」は、当時の社会経済を語るのに欠かせない。
財閥は戦後に解体されちゃうけど、その多くがいまも形を変えて日本経済に大きな影響を及ぼしているわ。
その中の1つ、三井をルーツとするのが、総合商社大手の「 三井物産 」だ。前身となる旧三井物産の初代社長・益田孝は、立身出世の人。佐渡奉行の下役人というふつうの家に生まれたけど、幕末に幕府使節団の随員として渡欧したおかげで、英語がペラペラになった。明治維新後は、その能力を政治家の井上馨に買われ、三井組の貿易商社を任される。当時、益田は27歳。社員はたったの16人で、まさにベンチャーとしての船出だった。
井上馨って外務大臣をやったり、鹿鳴館をつくったりした人でしょ? 20代の青年を新事業の社長にするなんて、思い切ったわね。
明治維新では、古い価値観や序列がいっきに崩れた。いまこそ自分の出番だ! とわき立つ若者の力を使わない手はないよね。益田は上海、パリ、香港、ニューヨークなど海外に次々と支店を設け、事業を拡大していった。戦後は財閥解体でいったん会社がなくなるけど、旧三井物産の社員が起こした会社を合併し、1958年に新生「三井物産」が誕生。いまでは鉄鉱石、原油など資源系に強い商社として、他社に差をつけている。海外の資源メジャーと組んで長期的な開発を行うのが得意で、2017年3月期は資源高の追い風を受けて好調。3000億円超の利益を出しているよ。
GNPの1割を稼いだ、伝説の商社
開国後、いち早く貿易をリードした民間の人たちはたくましいわね。
同じく総合商社の「 双日 」の出自もユニークだ。双日は、いずれも開国後に誕生した「日本綿花」「鈴木商店」「岩井商店」という3つの商社を源流にもつ。中でも「鈴木商店」は、海外を相手に強気のビジネスを展開し、一時期は「スエズ運河に通る船の1割は鈴木の船」といわれるほど発展した。鈴木商店を大きくしたのは、番頭の金子直吉。「三井三菱を圧倒するか、彼らと並んで天下を三分するか」と社員を鼓舞し、思い切った投資を実施。第一世界大戦であらゆる商品を買い上げて巨額の富をもたらし、鈴木商店は日本のGNPの1割もの売上を稼ぐようになったんだ。
すごーい! その後、どうなったの?
第一次世界大戦後の反動不況で、経営が悪化。拡大政策がことごとく裏目に出て、1927年に経営が破綻してしまう。
ジェットコースターのような運命ね……。
しかし、すべてを失ったわけじゃない。鈴木商店の若手社員が「日商(後の日商岩井)」を設立。合併を繰り返して、いまの双日になったんだ。双日は総合商社の中ではちょっと地味な存在だけど、浮き沈みの少ない、堅実な業績が続いている。「派手さより堅実さ」をとる僕みたいなタイプにぴったりの銘柄だな。
豪傑がつくった、海運業
もう1つの財閥、三菱グループの話をしよう。創始者は、岩崎弥太郎。土佐藩の経済官僚として、幕末に坂本龍馬とともに新しい日本をつくるために奮闘した人物だ。維新後は「これからの日本を支えるのは海運」と事業の道に入り、土佐藩が立ち上げた海運業者を「三菱商会」と改名して経営者になった。
三菱グループの出発は、海運業なのね。
その通り。弥太郎は先見の明があり、海運業が好景気なうちに次々と事業の多角化を進めた。それが三菱為替店(現・三菱東京UFJ銀行)、鉱業(三菱鉱業の前身、現・三菱マテリアル)、そして造船業(三菱造船の前身、現・「 三菱重工業 」)となり、第二次世界大戦後に財閥解体後の再編を経て、いまに至るわけだ。
一代でそんなにたくさん事業をつくったなんて、まさに明治が生んだ豪傑ね。海運、造船関係は新興国に押されているけど、三菱重工は大丈夫?
三菱重工の強みは、いまは造船だけじゃない。航空・宇宙機器、船舶、発電プラント、環境装置、産業用機械など、重厚長大を中心にあらゆるエンジニアリングを扱っている。たしかに商船事業は厳しいけど、経営合理化や、グループ会社の国産小型機MRJ(三菱リージョナルジェット)の開発をがんばっているところだよ。納期の遅れなど課題もあるけど、「国産ジェット1号」という挑戦、応援したいな。
豪傑がつくった会社にふさわしい夢、かなえてほしいわね。
「文明開化」で咲いたビジネスの花
明治時代といえば、「文明開化」。西洋化の波に乗って、もうけた会社もあるのかしら。
そうだな~。たとえば、せっけんの事業。明治になって舶来モノの高級せっけんが輸入されるようになったけど、庶民が使えるのは安かろう悪かろうの国内産。これを何とかしたいと立ち上がったのが、洋小間物商を営む長瀬富郎だ。彼は自ら薬品の調合技術を学び、職人や研究者にも協力を仰ぎ、質の高い国産せっけんの開発に成功した。顔にも使える美容せっけんだと伝えるためにつけたコピーが、「顔せっけん」ならぬ「花王せっけん」。
へえ~! 日用品の「 花王 」は、明治時代に始まったのね。ホームページを見ると、いつも買ってる商品ばっかり。洗剤のアタック、洗顔用ビオレ、掃除にはマイペット、消臭のリセッシュも!
花王はいまやトイレタリー国内トップ、化粧品でも大手。海外展開も順調で、2017年12月期決算では営業利益2000億円に達する見通し。これは、価格競争に陥りやすい日用品では画期的なことだ。しかも、同期間でなんと28期連続の増配を達成しそう。日本企業で20期以上の増配をしている企業は、花王のみ。創業者から受け継いだ「よきモノづくり」を実行し、ステークホルダーに利益を還元し続けられるなんて、すごいことだよ。
そんなに増配が続いているなんて、花王の株を長くもっている株主はうれしいでしょうね。これは、私も買おう……なんてね!
何、そのオヤジギャグ。
おいしいビールも、明治から
開国とともに、西洋から新しい食文化が入ってきた。牛鍋やあんぱんが流行し、ハイカラな人はビールも飲むようになった。国産のビール醸造も開始され、東京で「日本麦酒」、北海道で「札幌麦酒」、大阪で「大阪麦酒」が設立された。各社が出したブランドが、「ヱビス、サッポロ、アサヒ」だ。
3銘柄とも、いまも残ってる。あ、でもキリンがないわね。
ユイは酒の話だと冴えるね(笑)。同じころ、横浜の在留外国人たちがつくった「ジャパン・ブルワリー・カンパニー」が明治屋と組んで売ったのが、「キリンビール」。株主には岩崎弥太郎も名を連ねた。
ここにも豪傑が……。ビール業界も戦後の再編を経て、いまの形になったのかしら。
その通り。明治期に生まれた日本麦酒、札幌麦酒、大阪麦酒は一度合併し「大日本麦酒」となり、戦後に「朝日麦酒」と「日本麦酒」に分割される。そのうちの朝日麦者が、いまの「 アサヒグループホールディングス 」だ。戦後は分割されなかったキリンがシェアを伸ばしてトップに君臨するんだけど、1987年に発売された「アサヒスーパードライ」の大ヒットで形勢が逆転。その後、各社が厳しい競争を繰り広げながらも、ここ7年間はアサヒがトップの座を守っている
たしかに、スーパードライって特別な存在。ああいう辛口の生ビールって、ほかにない個性よね。
世界的な業界再編の波を受けて、アサヒグループは2017年にビール世界最大手のアンハイザー・ブッシュ・インベブから東欧5ヵ国のビール事業を買収した。これは、日本のビール会社による海外のM&Aとしては過去最大規模。アサヒグループは世界的なブランドの高級ビールをラインナップに加え、さらにヨーロッパでのスーパードライの販路も拡大する。これからどんな戦略を進めていくのか、期待がかかるね。……って、ユイ、話聞いてる?
なんかビールが飲みたくなっちゃって、お店を検索してた。よし、空いてる! 飲みに行くか。タカシ君、またね~!
え~、僕はまだ残業だよ。せっかくなら一緒に行こうよ……って、もういないし!
今回のテーマで取り上げた上場企業
三井物産
双日
三菱重工業
花王
アサヒグループホールディングス