日本のGX戦略の現在地

未来を変える!サステナブル投資/ 日興フロッギー編集部岡田 丈

自民党が単独で戦後最多の議席を獲得した歴史的な衆議院総選挙を経て、第二次高市政権が誕生しました。第一次高市政権では、「物価高対策」「危機管理投資・成長投資による強い経済の実現」「防衛力と外交力の強化」という3つの柱が経済対策として掲げられました。特に「危機管理投資・成長投資」では17の戦略分野が選ばれ、今後は官民が連携して取り組みが進むと期待されています。今回は、その中でもサステナブル投資に注目し、関連する企業の事例を紹介します。

高市政権における17の戦略分野

(出所:内閣官房)SMBC日興証券作成

17の戦略分野のうち、「9 資源・エネルギー安全保障・GX」のGXとはグリーン・トランスフォーメーションの略で、環境に優しいクリーンなエネルギーを活用していくための変革や、その実現に向けた活動のことを指します。日本は2050年までに温室効果ガス排出量をゼロにするカーボンニュートラルを目指し、その中間目標として2013年度比で2030年度にGHG排出量46%、2035年度に60%、2040年度に73%削減する国際公約を掲げています。

※GXについてもっと知りたいという方は、こちらの記事もご覧ください。
GXってなに?

エネルギー政策はどうなる?

高市政権では、エネルギーの安全保障を重視しています。具体的には、安全性の確認を大前提とし、原子力発電の再稼働を進めるとともに、新しい原子力技術への投資を拡大することで、電力の安定供給と脱炭素の両立を目指しています。そして、これらを重点分野と位置付けています。再生可能エネルギーの拡大推進も重視し、ペロブスカイト太陽電池、浮体式洋上風力、地熱発電などの国産開発に取り組んでいます。

※ペロブスカイト太陽電池についてもっと知りたいという方は、こちらの記事もご覧ください。
ペロブスカイト太陽光電池が切り開くカーボンニュートラルへの道
政権安定で推進期待 「ペロブスカイト太陽電池」関連株が上昇

次世代技術への投資~原子力発電における次世代革新炉~

「危機管理投資・成長投資による強い経済の実現」における17の戦略分野において、将来を見据えた次世代技術への投資であることがいずれも位置付けられています。これまで原子力発電はCO2を排出しないことからクリーンエネルギーと言われてきましたが、安全性に課題がありました。そこで従来より安全性を高めるべく、次世代の技術を取り入れた”次世代革新炉”の開発を進めています。

三菱重工業 」は、地震/津波/テロに高い耐性を備えた、世界最高水準の安全性を実現する“革新軽水炉”を2030年代の早期実現に向けて、国内の電力会社4社(北海道電力、関西電力、四国電力、九州電力)と共同で開発を進めています。

また、将来多様化する社会のニーズに対応できるよう開発に取り組んでいます。具体的には、電源の分散が可能な“小型軽水炉”。発電だけではなく、大量かつ安定的な水素製造にも貢献する“高温ガス炉”。放射性廃棄物の量の削減や再利用に貢献する“高速炉”などです。2040年頃の実用化を想定して、国の支援を受けながら開発に取り組んでいます。なお同社は2023年度に、日本政府が推進する高速炉実証炉、および高温ガス炉実証炉について、設計・開発を担う中核企業として選定されています。

世界最高水準の安全性を目指す革新軽水炉「SRZ-1200」(出所:三菱重工業)

日立製作所 」は、米国GEベルノバとの合弁会社を通じて、電気出力が1300MW(メガワット)級の革新大型軽水炉「HI-ABWR」の実用化と、300MW級の小型軽水炉(SMR)である「BWRX-300」の開発に取り組んでいます。

※1MW(1000kW)は、一般家庭の約2000~3000世帯分の電力とされています

小型軽水炉「BWRX-300」は、高い安全性を維持しながら、簡素化したシステムで優れた経済性を実現。実績ある技術の活用による高い建設性と、小型化によりさまざまな立地へ対応する柔軟性を兼ね備えている点が特徴です。

世界各国で新設プロジェクトの炉型候補に選定されています。具体的にはカナダのオンタリオ州(2030年末までの初号機商業運転開始が目標)、サスカチュワン州(2030年代半ばにSMR導入計画)の他、米国でも建設許可の手続きが進んでいます。他にもエストニア、ポーランドで新設炉の候補に選定されています。

小型軽水炉「BWRX-300」イメージ(出所:日立GEベルノバニュークリアエナジー)

高速炉・高温ガス炉の開発については三菱重工業が中核企業となり、それらに関連する技術を手掛ける国内企業が参画しています。「 富士電機 」は、高温ガス炉や高速炉およびMOX燃料製造分野において、核物質の遠隔取扱や放射性廃棄物処理に関する設計・製作技術を持ち、日本の革新炉開発の基盤を支える重要な役割を担っています。

高温工学試験研究炉「HTTR」の炉内構造物(炉心最上段)(出所:富士電機)

次世代技術への投資~ペロブスカイト太陽電池~

高市政権では、メガソーラー(大規模太陽光発電)の新規開発に関して慎重な姿勢を示しています。山林などを切り開く乱開発による環境・景観破壊や防災リスクに対して強い懸念を抱いているためです。一方、ペロブスカイト太陽電池を国産エネルギーとして最重要視し、日本企業による量産化技術確立を進め国内メーカーの競争力強化を目指しています。

ペロブスカイト太陽電池では、薄くて曲がるフィルム型の他に、建材と一体化したガラス型の研究開発が進められています。太陽電池を建材一体化することで、これまで発電に活用されていなかった窓やバルコニーなどのガラス部分でも発電が可能となり、効率的な創エネルギーに貢献します。

AGC 」は長年培ったガラス加工・施工技術を活かし、建材一体型太陽光発電(BIPV)ガラスの事業を20年以上にわたり推進しています。これにより、これまで太陽電池の設置が困難だった都市部などへの再生可能エネルギー導入を加速を目指しています。同社の現行の製品にはシリコンセルが使用されていますが、ペロブスカイトを使った製品の検討も進めています。

同社は2025年度の経産省傘下の国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)「グリーンイノベーション基金事業/次世代型太陽電池の開発/次世代型太陽電池実証事業」に採択されたパナソニックホールディングス株式会社を幹事企業として組成されたコンソーシアムに参画し、量産技術開発における重要な役割を担っています。

※2025年度のNEDOにおける採択事業は、2025~2029年度の最大5年間で対象企業合わせた事業規模約335億円に対して、約246億円(助成2/3程度)の支援が見込まれています(採択予定額であり契約などの手続きにより変更の可能性あり)。

東京国際空港(羽田空港)第2ターミナルの設置事例(出所:日本空港ビルデング株式会社)

“タンデム型”ペロブスカイト太陽電池

次世代技術として、従来の単接合型ペロブスカイトを進化させた“タンデム型”ペロブスカイト太陽電池の開発への着手も始まっています。“タンデム型”とはシリコン太陽電池やペロブスカイト太陽電池など複数の太陽電池を重ねたもので、単接合型ペロブスカイトに比べてエネルギー変換効率の大幅な向上が可能となります。

複数の太陽電池を重ね合わせることで幅広い波長の光を吸収できる

タンデム型ペロブスカイト太陽電池の特徴(出所:SMBC日興証券作成)

カネカ 」は、2026年2月にNEDOの「次世代型タンデム太陽電池量産技術実証事業」に採択されました。既存の結晶シリコン太陽電池の上に、ペロブスカイト太陽電池を重ね合わせたタンデム構造の開発を進めています。この技術では、異なる波長の光を吸収することで、従来型太陽電池よりも高い変換効率を目指し(将来的に40%以上を目標)、高い耐久性と低い発電コストの実現を目指しています。住宅の屋根や壁、ビル向けに実証試験を行い、2028年度にはタンデム型ペロブスカイト太陽電池の製品販売を開始する計画で、国産商用化に向けて重要な役割を担っています。

※2026年度のNEDOにおける採択事業はカネカと長洲産業が対象で、2025~2030年度の6年間で2社合わせた事業規模約128億円に対して約94億円(助成2/3程度)の支援が見込まれています(採択予定額であり契約などの手続きにより変更の可能性あり)。

軽量モジュール(出所:カネカ)

住宅用瓦一体型モジュール(出所:カネカ)

今回紹介したサステナブル投資銘柄が取り組む次世代技術は、数年後の商用化を目指したものだけでなく、2030年より先を見据えたものもあります。これらの革新的な技術開発は、国内のみならず、世界や地球全体のサステナビリティに貢献できることが期待されています。いずれも未来につながる技術であり、これら技術へ取り組む企業への投資はまさにサステナブル投資と言えるでしょう。