株式市場で「量子コンピューター」関連株が買われています。QUICKが選定する関連銘柄の平均上昇率は12.0%と、東証株価指数(TOPIX、0.7%)を大幅に上回りました(5月22日までの5営業日の騰落)。株価が上昇した5銘柄とその背景について解説します!
「量子力学」活用 既存の社会・経済を大きく変革か
関連銘柄が買われたきっかけは、5月21日の米商務省による関連企業への出資の発表です。量子コンピューターを手掛ける米IBMなど米国内9社に計20億ドル(約3200億円)を出資するというものです。
「量子コンピューター」は、膨大な情報を高速に処理することができる次世代の計算機です。物質を構成する原子や電子など極小の世界の物理法則である「量子力学」を利用することからそのように呼ばれます。
従来のコンピューターと比べて桁違いの計算能力を持ち、AI(人工知能)や金融、新たな素材開発への応用など、既存の社会・経済を大きく変革する可能性のある次世代技術として注目されています。
今回の出資は、米バイデン前大統領が署名した半導体や量子コンピューター関連産業のサプライチェーン(供給網)強化を図る「CHIPS(チップス)プラス法」に基づくもので、資金提供の条件として米政府は各社の経営権を伴わない株式を取得します。
背景には、米国や中国、欧州をはじめとする各国間での投資競争の激化があります。「量子コンピューター」技術が実用化されれば、現在のインターネットで使用されている暗号が容易に解読可能となり、サイバー攻撃の手段として転用される恐れがあると言われています。
そのため、経済的なイノベーションの創出のみならず、経済安全保障の観点からもその重要性が高まっており、各国は国家戦略分野として投資を急いでいます。
商務省の発表後、米株式市場ではIBMを始めとした関連銘柄の株価が急騰しました。米政府の発表を受け、改めて重要なテーマとして認識されたことで日本の株式市場にも買いが波及し、「量子コンピューター」の開発に関わる銘柄の物色が活発となりました。

「量子ドットレーザー」技術で先行【QDレーザ】
上昇率首位の「 QDレーザ 」は、2006年4月に富士通研究所からスピンオフして設立された新興テクノロジー企業です。社名の「QD」は量子ドット(Quantum Dot)に由来しています。その名の通り、半導体に電流を流すことでレーザーを発振する素子「半導体レーザー」、特に量子ドットを用いた「量子ドットレーザー」の開発と量産化技術を強みとしています。
レーザー技術は、光ファイバー通信の光源をはじめ、金属加工や計測センサーなど多彩な分野で応用される汎用性の高いものです。
同社最大の優位性は、ナノサイズの微小な半導体の粒(量子ドット)に電子を閉じ込め、より高いパフォーマンスを発揮する「量子ドットレーザー」の量産化技術を確立している、世界でも数少ない企業であるという点です。
この技術は次世代の量子暗号通信や量子コンピューター実現の要とも言われており、同社の競争力の源泉として市場から熱い視線を集めています。
関連ソフトウエア開発、新機能も発表【フィックスターズ】
上昇率2位の「 フィックスターズ 」は、ハードウエアの性能を最大限に引き出すソフトウエア開発を手掛ける企業です。
過去には理化学研究所のスーパーコンピューター「京」の共同開発チームの一員として、ビッグデータ処理の国際的なベンチマークテスト「Graph500」のソフトウエアチューニングを担当するなど、高い技術力を誇っています。
同社は5月22日、量子コンピューター向けソフトウエアの新機能「Amplify Quantum」(アンプリファイ クォンタム)を発表しました。この新機能を利用すると、IBMやアマゾンが提供する最先端の量子コンピューターに簡単に接続してシステムを動かせるようになります。次世代の本格的な量子コンピューター(ゲート型)がこれまで以上に活用しやすくなる点が市場から高く評価され、株価を上昇させました。
クラウドサービスやセキュリティーも 周辺領域でも存在感
「 エヌエフホールディングス 」は、研究開発や生産現場などで使用される高度な電子計測機器やセンサーを開発している企業です。
同社の強みは、ノイズ(雑音)に埋もれてしまうほど微小な電気信号を正確に検出し、極限まで増幅・処理する「低雑音信号処理技術」です。
この技術は国産量子コンピューターの1号機から最新の4号機まで採用されており、同社は国内の量子コンピューター開発において欠かせない存在となっています。
「 HPCシステムズ 」は大学や官公庁向けの高性能高速計算機の開発・販売を手掛けています。ハードウエアのみならず、クラウド上で量子コンピューターを用いた科学技術計算やシミュレーションを可能にするプラットフォームを提供しています。
「 GMOインターネットグループ 」は、量子コンピューターが現代の暗号技術を解読できる時代に備え、傘下の子会社を通じて新たなセキュリティー技術の開発・構築を始めています。
日本企業に存在感 「戦略17分野」として政府も支援
日本でも、量子コンピューターは高市早苗政権が掲げる「戦略17分野」の1つ(量子技術)として、重点的な官民投資の対象に含まれています。
使用される技術が従来のコンピューターとは大きく異なるものの、必要とされる部素材などで強みを持つ企業が日本には多く存在し(『量子コンピューター 高速大規模計算で スパコンを凌駕か』)、 その将来性には大いに期待が持てそうです。
市場調査会社レポートオーシャンの予測によると、日本の量子コンピューター市場は24年の3億5858万ドル(約570億円)から、35年には71億4591万ドル(1兆1350億円)まで拡大する見通しです。年平均成長率(CAGR)は34.88%に達し、先行する欧米諸国に引けを取らないペースでの成長が見込まれています。
ただ、本格的な実用化は30年代とされており、直近の株価水準には期待先行の面があるのも否めません。株価と実際の企業業績との乖離や相場の過熱感にも注意しながら、将来を見据えた投資を進めていきたいですね。