生成AI(人工知能)の爆発的な普及に伴い、巨大テック企業は競争力強化のため独自のAI半導体開発を推し進めています。独自設計の半導体を開発するグーグルを中心に各社の動向をご紹介します。
グーグルが2つの新AI半導体の開発を発表
私たちがAI(人工知能)を利用する時、AIは知識やパターンを身につける「学習」と、身につけた知識を使って実際に判断・予測する「推論」という2つの大きなプロセスで動きます。
今年4月、アルファベット(GOOGL)傘下のグーグルは、この「学習」に特化した「TPU 8t」と「推論」に特化した「TPU 8i」の2つの半導体を開発したと発表しました。
TPUはグーグルが開発したAI向け半導体の名称で、「Tensor Processing Unit:テンソル・プロセッシング・ユニット:多次元配列処理装置」の略です。そのままティー・ピー・ユーとも読みます。「t」は「Training(トレーニング/学習)」、「i」は「Inference(インファレンス/推論)を指しており、「8」は第8世代を意味します。
これまでは、学習と推論を同じTPUで処理していましたが、今回、用途別に設計したことで大幅な効率化と性能向上を実現しました。
AIが自律的に業務をこなす「AIエージェント」時代の到来を見据えたTPUの新製品開発で、自社サービスの強化に加え、外部企業への大量供給につなげる体制を整えます。
外部調達リスク回避で「エヌビディア1強」に変化も
グーグルがAI半導体を独自開発する目的は、AIインフラの主導権を握ることにあります。
現在、AI向け半導体ではエヌビディア(NVDA)の画像処理半導体(GPU)が圧倒的なシェアを誇っています。一方で、エヌビディア製GPUへの依存度の高さから、需要急増に伴う供給不足懸念や調達コスト上昇が課題となっていました。
AI半導体を独自開発することで、こうした外部調達に頼り過ぎるリスクを回避できます。また、自社の検索エンジンやクラウドサービスに最適化された半導体を使うことでコストパフォーマンスの向上やサービス強化につながるプラスの効果も期待できます。
グーグルはTPUの外販にも積極的に動いています。
AI開発企業アンソロピックは4月、AIデータ処理の急増を受けてTPUの利用を拡大し、数ギガ(ギガは10億)ワット規模の容量を調達すると発表しました。エヌビディア一強とされてきたAI向け半導体市場の勢力図には今後、変化する可能性があります。
AI半導体の現状とテック企業の対応
・エヌビディアが圧倒的シェアを持ち独占状態
・供給不安、需給逼迫による価格高騰がリスク要因
・テック企業は独自のAI半導体の開発を推進
・外部販売も含めAIインフラの主導権の確保狙う
他社はクラウドやSNS、自動運転の機能性向上も独自AI半導体開発の動きはグーグルにとどまりません。
マイクロソフト(MSFT)は「Maia(マイア)」を開発しています。
Maiaは大規模言語モデル(LLM)向けに設計されており、同社のクラウドサービス「Azure(アジュール)」などに活用されています。マイクロソフトが最大株主であるオープンAIとは、業務提携の内容は見直しながらもサービス基盤に対応する関係は続けています。
メタ・プラットフォームズ(META)は3月、「MTIA(Meta Training and Inference Accelerator:エム・ティー・アイ・エー)」について、今後2年間で4つの新世代を展開する計画を発表しました。
MTIAはブロードコム(AVGO)との共同開発で、メタのFacebookやInstagramといったSNS(交流サイト)のレコメンド機能や広告配信などのAI処理を効率化する中核技術です。
アマゾン・ドット・コム(AMZN)は、学習用の「Trainium(トレイニアム)」と推論用の「Inferentia(インフェレンシア)」を展開しています。エヌビディア製などのGPUよりも低コストで提供できるのを強みの1つとしています。
同社は4月、アンソロピックとの提携拡大を発表。アンソロピックのAI向け計算能力の確保のために、今後数年で最大5ギガワットに相当するTrainiumを供給することで合意しました。
テスラ(TSLA)は、自動運転向けのAI半導体のほか、自動運転技術をAIに学習させたり将来的に宇宙空間でAIコンピューティングを稼働させたりするためのスーパーコンピューター「Dojo3(ドージョー・スリー)」を開発しています。
巨大テック企業の独自AI半導体の開発競争は今後も熾烈を極めそうです。
※文中のアルファベットの読みは一般的なもので他にも読み方は考えられます。