もしもに強い社会へ。未来へつなぐレジリエンス【前編】

未来を変える!サステナブル投資/ 日興フロッギー編集部岡田 丈

桜の季節が終わったと思ったら、あっという間に灼熱の暑さがやってくる――。

そんな年が、ここ最近は珍しくなくなりました。猛暑や豪雨といった気象の変化は、もはや「異常」と呼ぶには日常的なものになりつつあります。地震など自然災害の多い日本において、こうした気象リスクへ備えておくこと、そしていざというときに社会全体でいかに踏ん張れるかが、いま改めて重視されています。

災害が起きても速やかに立ち直れる社会の力は「レジリエンス」と呼ばれ、近年注目を集めています。

わが国の骨太方針と国土強靭化

「骨太方針2025」(2025年6月閣議決定)では、災害に強い社会づくりが、日本経済の成長を支える重要な政策の一つとして打ち出されました。同方針は、災害の激甚化やインフラの老朽化といった課題に対応するため、国全体で体制強化を進めるとしています。

同時に、「第1次国土強靭化実施中期計画」が開始しました。同計画では2025年度から5年間で、気候変動に伴い激甚化・頻発化する風水害等の自然災害や、切迫する南海トラフ地震、首都直下型地震などの大規模地震から国民の命と暮らしを守るため、国として推進する防災・減災、国土強靭化の具体的な取り組みが掲げられています。

こうした国の政策を踏まえ、住民の生活基盤を支える各自治体にて、インフラ整備やライフライン強化、デジタル技術の活用等といったレジリエンス向上への対策強化が進められています。

民間企業におけるレジリエンスに関する取り組み

そして今、このレジリエンスの向上に関する潮流は、民間企業の動きも重要になっています。

民間企業ではレジリエンスに対してどのような取り組みを行っているのかを見ていきましょう。

東日本旅客鉄道 」(JR東日本)では、「安全」を経営のトッププライオリティに掲げ、日々さまざまな安全性向上に取り組んでいます。大規模な地震を観測した場合には、地震計や緊急地震速報(気象庁)等の情報を活用することで、速やかに安全に列車を停止させる仕組みを構築しています。万が一新幹線が脱線した場合でも、車両が大きく逸脱しないようレール転倒防止装置等の対策を実施しています。

首都直下型地震などの大規模な地震への備えとして、計画的に高架橋や橋りょうをはじめとした様々な構造物の耐震補強を行っています。強風対策では風速計の設置や防風柵の設置により風による影響を低減したり、大量の雨が降った際の斜面崩壊の防止として、のり面防護工事等を実施しています。

高架橋の耐震対策

橋りょうの耐震対策

強風対策(防風柵、風速計)

降雨防災対策(のり面防護工事)

駅構内で大規模地震に遭遇した場合には、乗客の一時的な安全な滞在場所への誘導や、駅構内のスペースに案内ができない駅でも、トイレや公衆電話の開放、関係機関と協力した最新の情報提供に努める等の対策を行っています。

駅構内の一時滞在場所のイメージ

東京メトロ 」(東京地下鉄)は、「地下鉄を安全に、そしてつよく」をサステナビリティ重要課題の一つに掲げ、日々、安全・安定輸送の実現や強靭で安心な交通インフラの構築に取り組んでいます。同社も、大規模地震発生時の緊急地震速報を活用した早期地震警報システムの運用や、構造物の耐震補強を行っています。ほかにも台風や大雨による浸水に備えて、浸水のおそれのある駅の出入口に関して歩道より高い位置で設置したり、止水板や出入口全体を閉鎖することができる防水扉を設置することで浸水を防止する等の整備を行っています。

浸水対策の例:完全防水型出入口

同社は地震発生時には、乗客を駅構内の安全な場所に誘導し一時待機するよう対策を行っています。飲料水やアルミ製簡易ブランケット、携帯用トイレ、簡易マット等を配備しています。また、大規模地震発生時に万が一、エレベーターが途中停止したままとなった場合に、救助までの間乗客が安心して待機できるよう、同社が管理する全エレベーター内に非常用品を設置しています。

非常用飲料水とアルミ製簡易ブランケット

簡易マット

EV内非常用品

このように、鉄道会社は災害発生時に乗客の安全確保を最優先に、早期運行再開に向けあらゆる観点から日々対策に取り組んでいます。

関西電力 」・関西電力送配電は、ライフラインである電気の安定供給を守るために、グループ一丸となって日々、防災・減災対策を進めています。過去の教訓を踏まえ、甚大な被害が予想される場合には一般送配電事業者間や関係機関(自治体・警察・消防・自衛隊・海上保安庁・民間企業等)とも連携を図り、一刻も早い災害復旧を目指して電力の安定供給に取り組んでいます。

能登半島地震の停電復旧作業の様子

高圧発電機車で応急送電する様子

同社は地震、台風などの大規模災害発生時の早期復旧に向けて、土砂崩れなどで侵入が困難な場所での被害状況の確認や、架線の復旧工事にドローンを導入しています。特に大規模な設備・高所設備の点検においては費用(人件費・足場設置費・安全対策費)の削減とともに時間の短縮にも繋がり、復旧の迅速化を図ることができます。

災害時のドローンによる空撮の様子:侵入困難な場所の被害状況の把握が可能に

ドローン活用により作業効率が向上し、作業員の安全確保にも繋がる

東京ガス 」グループは、今日起こるかもしれない大地震に備えて、平常時から大規模災害を想定した様々な防災体制を整備しています。緊急車両の出動態勢の整備、災害発生時を想定した遠隔操作によるガス供給停止訓練や全社員が参加する訓練等を実施し、万が一の際に的確な行動をとるための態勢を日頃から整えています。

同社は大地震の被害を最小限に抑えるため、ガスの製造設備は耐震性に優れた構造設計を採用しています。高圧・中圧ガス導管は、地盤変動に強い素材を採用しています。いずれの設備でも阪神・淡路大震災、東日本大震災などの震災時にLNGが漏洩した実績はなく、高い耐震性が確認されています。

高圧・中圧ガス導管(出所 東京ガスネットワークHP)

同社は大規模な災害時には、全国200余社の都市ガス事業者間との応援体制を敷いています。災害復旧に対する要員や資機材を相互に協力し合い、一日も早い供給再開に向けて復旧作業に取り組めるよう互いに連携しています。

過去の大規模災害時における全国の都市ガス事業者による応援体制(出所 東京ガスネットワークHP)

大手通信会社の「 KDDI 」「 ソフトバンク 」「 NTT 」の子会社の「NTTドコモ」は、低高度を軌道する通信衛星「Starlink(スターリンク)」を順次導入しています。Starlink(スターリンク)は、米国スペースX社が開発した技術です。人工衛星と通信会社の通信網を活用することで、スマートフォンが衛星と直接つながり、空が見える状況であれば圏外エリアでも通信をすることが可能になります。地上に大規模設備を必要としないため、通信環境が整備されていない山間部でも高速・低遅延の通信ができるようになり、災害時に強みを発揮します。

KDDIとスペースX社Starlinkの衛星直接通信サービス

通信事業者であるNTTグループ、KDDI、ソフトバンク、「 楽天グループ 」の楽天モバイルら各社は、競合の垣根を超えて、大規模災害の発生時におけるネットワークの早期復旧を目的として、通信事業者間の新たな協力体制を構築し、2024年12月から共同で運用を開始しています。

大規模災害の発生時に、各社が保有する資産(事業所、宿泊場所、資材置き場、給油拠点など)を共同で利用することで、被災地のネットワークの復旧活動を相互に支援し、早期復旧につなげます。

災害発生時には、モバイル通信事業者と固定通信事業者の連携を強化し、自治体や病院などの重要拠点をカバーするネットワークの障害の原因となる固定通信網の支障箇所を特定するなど、復旧作業における優先順位を明確化して取り組むとしています。特に携帯電話基地局向けの回線の復旧を迅速化することで、被災地のモバイルネットワークをこれまで以上に早期に復旧できるとしています。

※KDDIの「au Starlink」についてもっと知りたいという方は、こちらの記事もご覧ください。

レジリエンス、「もしも」の先へ未来をつなぐ

私たちの身近な商品やサービスを提供している企業が、私たちが普段見えていないところで「もしも」に備え、さまざまな工夫を重ねています。こうした取り組みは、災害が多い日本企業ならではの工夫があり、これら備えは各社の強みでもあり、サステナブルに成長し続ける力を知るヒントにもなりそうです。

今回は、特に災害時に重要となるライフラインを担う鉄道や電力、通信関連の企業を中心に紹介しましたが、レジリエンスの向上に力を入れているのは、これらインフラ企業だけではありません。

次回は、他の業種で取り組まれているレジリエンス向上施策に目を向けてみましょう。