みなさんこんにちは! 公認会計士兼税理士の山田真哉です。
2026年6月、税理士や投資界隈で注目されていた最高裁の判決が出ました。この判決は投資家の皆さんへも大きな影響を与えるので、解説したいと思います。
お送りする内容は、以下の通りです。
・最高裁判決の中身
・日本のガラパゴス税制
・最高裁判官からの異例の苦言
・これから税務調査が多発する!?
投資家なら知っておくべき「為替差益」
今回の裁判の論点で、まず押さえておきたいのが「為替差益」です。
例えば、1ドル100円の時に100万円を1万ドルに両替したとします。時が経って、1ドル160円の時に、その1万ドルを円に両替すると160万円になります。この差である60万円は利益となります。この為替の変動で出た利益が「為替差益」です。そして、この為替差益に対して税金(所得税)が発生します。
この為替差益について、100万円を1万ドルにし、それをさらにユーロに変えた場合はどうなるのかーー円に戻した時に為替差益が発生するのは理解できますが、そこから「別の通貨に変えた際の課税がどうなるのか」が今回の裁判の争点でした。
というのも、「別の外貨に交換した時点で課税になる」と国税庁が主張したからです。ところがその旨が税法上、明確に書かれていなかったので、国税庁の主張に納得できない投資家が最高裁まで争ったわけです。
一番厄介な税金「雑所得」
為替差益は、「雑所得」として所得税が課税されます。そもそも税金の計算の元となる「所得」には、事業所得・給与所得・不動産所得・一時所得など10種類あります。雑所得はそれらのどれにも当てはまらない所得です。
なお、雑所得の課税方法には総合課税と分離課税があります。総合課税は他の所得を合計して計算し、分離課税は個別に計算する方法です。
雑所得で総合課税にあたるものは3つあります。①年金収入が該当する「公的年金等」、②副業やアフィリエイト収入、原稿料、講演料が該当する「業務」、③外貨の為替差益や暗号資産の売却益が該当する「その他」です。
なお、雑所得の対象となるのは、「益」だけであることがポイントです。1年間通して最終的に外貨の為替差損や暗号資産の売却損が出た場合は、課税対象ではありません。
為替差益の所得税率は総合課税であるため、給与など他の所得と合算され、5%〜45%となります。さらに住民税10%も課されるので、最大55%の税金がかかることになります。
ちなみに、雑所得の分離課税には、FXや商品先物が対象の「先物取引にかかる雑所得」があります。税率は20.315%で、他の所得と分けて計算されます。株の売却益や配当金も税率は20.315%です。そのため、「株の売却やFXの取引なら税率が約20%なのに、なぜ為替差益は55%なのか」といった疑問もありました。
さらに雑所得では、赤字が出ても他の所得の黒字と相殺する損益通算はできません(雑所得同士では相殺できます)。そのため、事業所得や給与所得が多い方が、為替差損があったとしても全く関係ありません。為替の赤字はただの無駄です。
仮に会社員の方で、為替差益を含め年間20万円超の所得があれば、確定申告が必要になります(厳密には、所得が1円でも生じていると住民税申告が必要になります)。
最高裁判決の結果
今回の最高裁の判決を結論からいうと、国税庁の全面勝訴になりました。
判決では、「他の外貨を取得した時点で、もともとの外貨の経済的価値が固定化される。つまり、ドルをユーロに変えた時点で、一旦そこで利益が出たかどうかが判明する。その際、日本の税金である以上、強制的に日本円に換算して利益を計算するしかない」とされました。つまり、通貨を交換した瞬間に円で計算して課税することが確定しました。
たとえば、100万円で両替した1万ドルを、さらに8000ユーロに変えた場合、1ユーロ180円だとすると、8000ユーロ×180円で144万円です。ということは、もともと100万円だったので、44万円の利益が出ています。そこに所得税をかけると、最高税率55%であれば、24万2000円を納税しなければなりません。
似たケースとして、以前、1ドル=100円のときに円から両替したドルを使って、米国株を買うケースもあると思います。この場合も、米国株に変えた時点のドル円の為替レートで日本円換算し、その差額がプラスなら為替差益となり、所得税が課されます。
ちなみに、今回の裁判は、そもそも大富豪がスイスのプライベートバンクに105億円の運用を一任していたケースでした。一任されたスイスの銀行は、当然、円だった資金をドルやポンド、スイスフランなど色々な通貨に変えて債券や株を買っていました。それを「為替取引があるごとに日本円で計算して納税しなければいけなかったのにしてなかった」と国税庁は主張したわけです。
今回、訴えた投資家本人は、「自分が知らないところで銀行側が為替を色々と変えていただけで、意図的に自分自身が売買に関わったわけではない。そもそも知らなかった」と主張をして、最高裁まで争われました。
今回は大富豪のケースでしたが、実務上の影響も生じる判決となりました。次に実務上の影響について解説します。
投資への実務上の影響
今回の判決での一番の問題は、外貨から別の外貨へ交換するたびに、その瞬間の為替レートを調べて円換算しなくてはいけないという点です。
しかも為替差益の税率は最大55%で負担も重たいです。仮に為替差損であっても、他の所得と相殺できないので、手間だけかかって税務上のメリットはありません。AIの進展次第ですが、現状、個人で正確に税額を計算して確定申告するのは、件数が多いと実質不可能だと思われます。
では、国内の証券会社で「特定口座・源泉徴収あり」を使って株取引をやっている場合はどうでしょうか? 「証券会社が日本の税法に則った処理を自動的にやってもらっているから大丈夫」と思う方もいるでしょう。しかし、「特定口座・源泉徴収あり」であっても、外貨決済で株取引を行なった場合の為替差損益については、ご自身で確定申告をする必要があります。
NISA口座では外国株式や外国ETFに投資した場合、株式やETFの値上がり益そのものは非課税です。ただし、外貨決済で取引を行なった場合は注意が必要です。例えば、円から米ドルへ両替して保有していた外貨で外国株式を購入したり、売却代金を外貨で受け取ったりした場合は、株式等の譲渡益とは別に為替差益が発生している可能性があります。この為替差益はNISAの非課税対象にはならず、雑所得として課税対象となり、金額によっては確定申告が必要になります。
そのため、外貨で運用を続ける場合には注意が必要です。外貨を別の外貨に交換したり、外貨で外国株や外国ETFを購入したりするたびに、為替差損益の計算が必要になる可能性があります。なお、外貨の運用方法の一つとして、外貨建てMMFを利用する方法もあります。外貨建てMMFの譲渡益は、株式や投資信託と同じく申告分離課税の対象となるため、その後の損益管理が比較的しやすくなる場合があります。
ただし、外貨建てMMFに買い換えた時点で、それまでに生じていた為替差益は実現したものとして課税対象になる可能性があります。外貨建てMMFにしたからといって為替差益の問題がなくなるわけではありません。
あくまで「その後の管理方法の一つ」と考えてください。
課税ルールのまとめ
最後に、為替差益の課税のルールをまとめます。まず、円からドルにして、さらに円に戻す場合は、円に戻したタイミングで課税されます。これまで通りです。
次に、円からドル、その後ユーロや外国株に変えた場合、こちらも課税されることが今回の判決で確定しました。実は以前から国税庁としては課税していましたが、今回の判決で最高裁のお墨付きを得たということです。
なお、ドルをA銀行からB銀行に移した場合は、課税されません。同一通貨の移動であれば非課税です。
日本のガラパゴス税制
というわけで、為替取引のたびに課税されるわけですが、諸外国では為替差益がそもそも非課税だったり、一定金額以下は免税だったり、課税があっても低い一定の税率だったり、損益通算があったりと日本とは全く違います。
この日本独自の複雑な雑所得のルールのため、海外の金融機関にとって日本人は対応が難しい顧客とみなされることがあります。その結果、海外の金融機関が日本の居住者の口座開設を拒否しはじめているという話も出てきています。海外の方が運用利回りがいいのに、税法のせいで口座開設できない可能性が出てきているわけです。
最高裁判事からの異例の苦言
今回の判決文を読むと、後半部分には政府や政治家に対する裁判官からの苦言があります。「現行法では、都度日本円に換算して課税しろと判決するしかない。しかし、国際取引が日常的な現在、すべてを円換算して把握する仕組み自体に問題はないのか。国は課税のあり方を抜本的に見直すべきではないか」という補足意見です。
そのため、今後、国がルールを変える可能性は十分にあると思います。しかし、現状は通貨を変えるごとに為替差益が出るなら税金が発生する、ということを覚えておいてください。
税務調査が増える可能性
というわけで、判決について見てきましたが、これまでも「為替差益に課税する」と国税庁は言っていました。しかし、為替差益をみんなが確定申告していたかと言われるとどうでしょう? 実際、税務調査で指摘されたことはこれまでありませんでした。もちろん大富豪であれば、今回の裁判のような指摘を受けることもあるかと思いますが、一般の投資家レベルではそこまで指摘されてきませんでした。というのも、所得税法上で明確な規定がなかったからです。
しかし今回、最高裁の判決が出ました。これから国税は為替差益についても厳しく見てくると思います。さらに、これから国税庁もAIを活用していくと考えられます。AIによる調査で、「保有していた外貨を使って、この時期に外国株を購入していたら為替差益が出ているだろう」といったことが一目瞭然になるとしたらどうでしょう。今後、為替差益について税務調査が増える可能性もあると思います。
というわけで、2026年6月21日時点の情報でした。
よかったら今後ともごひいきに。ば~い、ば〜い!