20年後の月10万円、今いくら必要?

ビジネスパーソンが、いま知るべきお金の話/ 頼藤 太希

知っているかどうかで将来大きな差がつくお金の知識。この連載では、テレビやWebメディアなどで活躍するマネーコンサルタント・頼藤太希さんが、ビジネスパーソンに身近なお金のテーマをわかりやすく解説。将来に向けた備えから日々の家計管理まで、いま知っておきたいお金の知識をお届けします。

物価上昇や将来の資産形成、年金制度など、次から次へと移り変わるお金の話題に、「何から考えていけばよいかわからない」とお悩みの方も多いのではないでしょうか。

取り崩しを前提に考える、老後資金の新しい見方

住宅、教育、老後――人生には大きなお金の山場があります。
連載初回の今回は、老後資金について取り上げます。

老後資金を考えるとき、よく話題になるのが「いくら貯めれば安心か」です。かつては「老後2000万円問題」が大きく注目されましたが、実際に必要となる額は人それぞれ。大切なのは、貯めることだけでなく、どう取り崩して使っていくかまで含めて考えることです。

今回のテーマは、「老後に月10万円を受け取れる状況をどう作るか」。

そのために必要な資金と、10年・15年・20年・30年といった運用期間ごとの考え方を整理します。

老後2000万円問題の“その後”

2019年に話題になった「老後2000万円問題」は、金融庁の報告書をきっかけに広まりました。夫65歳以上、妻60歳以上の無職世帯では、毎月の収入と支出の差が約5万5000円あるとされ、30年続くと単純計算で約2000万円不足する(出所:総務省「家計調査報告」2017年)、という見方です。ただし、この話は少し誤解されやすい面もあります。

というのも、この報告書では各家庭に取り崩せる資産があることが前提となっているのです。つまり、年金に加えて、資産を少しずつ使っていくことを想定した話だったわけです。

その後、インフレの進行もあって「老後4000万円必要」といった話も出ました。しかし、こちらも少し極端です。公的年金額は物価に応じて変動するため、必要額は単純に倍増するわけではありません。2024年に総務省が発表した家計調査では、老後の赤字額は3万4000円まで縮小しています。つまり、必要額は一律ではないということです。

年金に加えて、月10万円の上乗せ収入をつくる

老後の生活を考えるうえで、年金に加えて月10万円の収入があると、暮らしの安心感はかなり違ってきます。月10万円は大きな金額です。そして、決して非現実的な目標ではありません。そこで考えたいのが、老後20年間に月10万円を取り崩しながら使うには、どれくらいの資金が必要かという点です。

預貯金だけで準備するなら、

10万円×12か月×20年=2400万円

が必要です。

ただ、預貯金だけではインフレで少しずつ目減りしていきます。そのため、運用しながら取り崩すという発想が欠かせません。

運用しながら取り崩すと、必要資金はどう変わるか

運用しながら取り崩す方法にはいくつかありますが、ここでは定額取り崩しを前提に考えます。このとき役立つのが、年金現価係数です。これは、取り崩し期間と利回りから、「開始時にいくら必要か」を計算するための係数です。

たとえば、利回り4%で20年間、毎月10万円を取り崩すなら、必要資金はおよそ1650万円になります。想定した利回りどおりに運用できた場合、 預貯金だけで2400万円必要だったものが、運用を組み合わせることでかなり圧縮できるわけです。

取り崩し期間中の利回りは4%をひとつの目安に

取り崩し期間中の利回りをどう考えるか。ここで参考になるのが、GPIFの運用実績です。
GPIFは、日本の年金積立金を運用する機関投資家です。

出所:GPIFウェブサイト(https://www.gpif.go.jp/)

国内株式・国内債券・外国株式・外国債券にそれぞれ25%ずつ配分し、分散投資を行っています。その運用成果は、2001年度から2025年末までで年平均4.67%。累積収益額は196.9兆円に達しています。もちろん、運用なので常にプラスとは限りません。ただ、こうした分散投資の考え方を参考にすると、取り崩し期間中の利回りは4%程度をひとつの目安にできると考えられます。

リスクを取りすぎない。長く続けられる運用を

資産形成期は、できるだけ増やすことに目が向きやすいものです。でも老後は、むしろどう減らすかがテーマになります。ここで重要なのは、リスクを取りすぎないことです。リスクとリターンはトレードオフですから、ハイリスク商品ばかりを選べば、大きく増える可能性がある一方で、大きく減る可能性もあります。

資産を取り崩す局面では、

・家計に無理のない金額で
・自分のリスク許容度に合った商品を選び
・長く続けられる運用をする

ことが大切です。

10年、15年、20年、30年で必要額はどう変わる?

運用期間が長くなるほど、必要な積立金額は小さくできます。逆に、運用期間が短いほど、毎月の積み立ては大きく必要になります。

10年で目指す場合
10年で1650万円を目指すには、かなり積極的な運用が必要です。たとえば、積立金額が10万円なら、年7%以上で達成圏に入ります。一方で、毎月10万円を超える積み立てが必要になるケースもあり、短期間での達成は簡単ではありません。

出所:Money&You

15年で目指す場合

15年になると、達成しやすい組み合わせが増えます。
たとえば、

月5万円なら年8%以上
月6万円なら年6%以上
年4%目標なら月7万円程度

で1650万円を超えます。

出所:Money&You

20年で目指す場合

出所:Money&You

20年になると、少ない積み立てでも達成しやすくなります。
たとえば、

月4万円なら年6%以上
年4%目標なら月5万円程度

で1650万円を超えます。

30年で目指す場合

出所:Money&You

30年では、さらに必要な積み立て額が下がります。
たとえば、

月2万円なら年5%以上
年4%目標なら月2万4000円程度

で1650万円を超えます。

つまり、早く始めるほど、無理なく目標に近づけるということです。

早く始めることが、いちばんの武器

「投資はいつ始めるのがベストか」と聞かれたら、答えはシンプルです。できるだけ早く。短期的な上下を見ていても意味はありません。長く運用すればするほど、複利効果や再投資効果が効いてきます。元本を大きく割らずに増やせる可能性も高まります。もちろん、無理は禁物です。家計に負担のある積み立てや、自分のリスク許容度に合わない運用は、長続きしません。大切なのは、長く続けられる投資を、早く始めることです。

まとめ
・老後資金は一律ではなく、人によって必要額が異なる
・年金に加えて、月10万円の上乗せ収入があると安心感が大きい
・預貯金だけなら20年で2400万円が目安
・運用しながら取り崩せば、必要資金は圧縮できる
・取り崩し期間中の利回りは、4%程度をひとつの目安にできる
・GPIFの運用実績は、分散投資の有効性を示している
・運用期間が長いほど、必要な積み立て額は小さくなる
・投資は、できるだけ早く始めるのが有利

資産形成は、増やすことだけではありません。どう取り崩し、どう使い、どう長く続けるかまで考えることが、老後のお金を安心につなげる第一歩です。

気になった方は、こちらのYouTube動画をご覧ください。

・GPIFの実績はあくまで一例であり、将来の運用成果を保証するものではありません
・本シミュレーションは一定の利回りを仮定したものであり、将来の運用成果を示唆または保証するものではありません
・投資には価格変動リスク等があり、元本割れとなる可能性があります
・市場環境によっては想定どおりの資産形成や資産の取り崩しができない場合があります