相続した”負動産”を国が93%オフで売る新制度の真相

フロッギー版 お金で得するオタク会計士チャンネル/ 山田真哉

みなさんこんにちは! 公認会計士兼税理士の山田真哉です。
相続した土地を国に引き取ってもらえる「相続土地国庫帰属制度」は2023年4月に始まりました。そして2026年6月には国庫に帰属した土地を売却しやすくするための新たな運用も始まっています。こうした動きについてNHKのニュースでも報じられているのですが、SNSでも大きな話題になりました。

「税務署から、亡くなった父親の土地の価値が1億円だから、相続税5000万円払えと言われた。でも、息子は現金がないので相続放棄した。すると税務署は、その土地を引き取って、本当は1000万円の価値しかない土地だから1000万で買う人いる? と言う。これって騙して土地をタダで奪う詐欺師の手口では?」といった内容です。

実際の制度や数字はさておき、「土地に価値があるとして税金を課す一方で、実際に処分するときは大幅な値引きが必要になる」という問題提起には考えさせられる部分があります。そこで今回は、財務省の資料や会議の議事録をもとに解説していきたいと思います。

お送りする内容は、以下の通りです。

・負動産の問題
・財務省が頭を抱える理由
・土地を最大93%オフで叩き売る新制度
・今の問題点、令和の大矛盾
・歴史的な転換点へ⁉

負動産の問題、国が有料で引き取ることに

持っているだけで税金や管理費がかかり、売りたくても売れない不動産のことを「負動産」と呼びます。そのような土地を市区町村に寄贈しようと思ってもほぼ断られます。なぜなら役所にとっても公園にするくらいしか使い道がないからです。そこで、このような土地を手放して国へ帰属させる「相続土地国庫帰属制度」が2023年4月からスタートしました。つまり、相続した土地を一定条件の下で国庫に帰属させ、国が管理や処分を行う制度ができたのです。

対象は宅地、田畑、森林、雑種地、原野と幅広く、過去に相続した土地でも構いません。ただし、多くの条件があります。建物が残ってるのはダメで更地でなくてはいけません。そして、崖だったり、担保権が設定されたまま、大量のゴミがある、近隣との境界争いがあるといった場合は受け付けてもらえません。そのため、申請件数が5698件に対して、実際に国庫に帰属されたのは2885件です(2026年6月30日時点)。審査中もあるとはいえ、申請した土地がすべて国庫に帰属されるわけではありません

さらに相続人側がお金を支払う必要があります。まず、申請時に「審査手数料」として、土地1筆あたり1万4000円がかかります。こちらは、審査で却下・不承認になっても返還はされません。そして、承認後に「負担金」として、10年分の土地管理費用相当額20万円(基本料金)、面積が広いとさらに割り増して支払う必要があります。それでも手放したい人がたくさんいるわけです。

しかし、この制度が始まって3年経ったのですが、大問題が起きてます。特に頭を悩ませているのが財務省です。さらに農林水産省や国土交通省も絡んできます。これは一体どういうことなのか、次に見ていきます。

財務省が頭を抱える理由

財務省が頭を抱える理由、まず1つ目は、相続した土地を国が取得するときの問題です。土地の申請審査や承認を行うのは法務局ですが、管理するのは財務省の理財局です。

傾いている土地のケースでは、法務局が相続人に指示を出し、工事をしたうえで受け取ったものの、管理している財務省からすると、傾いていることに変わりはないから売れないといったことが一例です。つまり、土地を受け入れる段階の判断と、その後に管理・売却する段階の判断との間に、目線のズレが生じているのです。

他にも、宅地は財務省が、農地は農水省が管理する決まりなのですが、1つの土地なのに、用途が複数あると別々の管理になり、綺麗な区画で売ることができないという問題も発生しています。

そして管理費用の問題もあります。例えば傾斜地で、下に民家がある土地の場合、柵を設置したり、草刈りが必要です。この管理もタダではありません。柵設置に平均14万円、看板設置で約2万円、さらに草刈りで約6万円かかるといったデータもあります。その結果、令和7年度には、負担金を年換算で約4600万円受け取っているものの、実際に支払った金額は8200万円で、負担金の約2倍の管理費用がかかっています。

さらに、相続人から取得した土地の売却金額は、その土地の財産評価額を持っている地方自治体からデータを入手して、実際の土地の状況と照合しています。この作業もかなりの負担になっています。他にも、「歩道橋の下や線路の脇など、土地が狭すぎてどうしようもない」「そもそも不動産鑑定士などの鑑定評価が高すぎて、実際に売買される価格と全く合わない」といった問題もあります。

その結果、財務省はすでに1500件以上の土地を受け取っているのですが、売却実績はゼロ件です。この制度が始まって3年経つのに、1件も売れていないのです。

引き取った土地は国有財産になりますから、入札が前提です。ところが、誰も入札したがらない。そこで財務省は、多くの地方自治体や民間の不動産業者からヒアリングをし、新しい制度を始めることにしたわけです。

最大93%OFFで叩き売る新制度

というわけで、国有財産となった相続土地を売却する際の新制度は、2026年6月からスタートしています。

まず、この新制度では、①買い手が隣接土地所有者のみである場合、もしくは②買い手がお隣さん以外の1社のみであり、かつ予定価格が100万円以下の場合、随意契約(買い手との交渉だけで売却すること)ができるようになりました。

しかし、これは幸運なケースで、ほとんどの場合は、買い手がなかなか見つかりません。その場合は安く売ろうという考えになります。ただ、国は土地を安く売れません。国有財産は適正な対価で売らなければなりません。国の財産は「適正な対価」で売却する必要があり、その評価では、財産評価基本通達に基づく相続税評価額が基礎になります。ただ、このルール通りに評価すると、市場性の乏しい土地では価格が高くなりやすいのです。

そこで、例外規定を作ったわけです。対象は、宅地の場合は、面積1000㎡以下かつ概算評価額5000万円以下、宅地以外の場合は概算評価額3000万円以下です。ちなみに、相続土地国庫帰属制度で引き取った土地の大半がこの基準に収まっています。価格が高いものは、わざわざ負担金を支払ってまで国に渡したりしませんからね。

具体的な流れは、まず、国庫に帰属した土地について、参考となる価格を財務局などのホームページに3ヵ月間掲載して、入札の希望者を待ちます。この受付期間が終了し、随意契約にする場合、現状有姿(げんじょうゆうし:現在あるがままの状態のこと)による売買を導入します。

現状有姿とは、測量をきちんとしていなかったり、もしかすると地下に何か埋まっていたり、土壌汚染があるかもしれないが、そんな場合でも売主(国)は一切責任を負わないという売買です。これは買主にリスクがあるので、30%値引きになります。値引きした上で、もう一度ホームページに掲載して要望の受付を行います。それでも買いたいという要望がなければ、3ヵ月ごとに10%ずつ値引きをしていく。最初を100とすると、最大93%の値引きをして売ることになります。

今の問題点、令和の大矛盾

では、財務省が安く土地を売ることの何が問題なのか。

そもそも国が決める土地の価格は、国土交通省が毎年定めている地価公示価格がベースになります。この地価公示価格をベースとして、約80%が相続税評価額、約70%が固定資産税評価額の目安となっています。

そもそも“負”動産は、相続税を払って相続したのに、さらに毎年固定資産税もかかる。維持費が負担になるので売りたいけど、買い手がいないという土地です。そのために負担金を支払ってでも国に引き取ってもらう相続土地国庫帰属制度ができたのです。にもかかわらず、受け取った側の財務省が、売れないからといって国が一切責任を負わない現状有姿で、最大93%引きで売却するという話になっているわけです。

かたや相続税や固定資産税など税金を取るときは、土地に価値があるから税金を払うようにと言っています。実際、財務省のデータによると、受け取った土地のうち、100万円以上の価値がある土地が半分以上となっています。にもかかわらず、国が取得した土地を売るときは、もう価値がないから93%値引きというのは、同じ土地でありながら、評価額と実際の処分価格の間に大きな開きが生じているのです
もう少しだけ踏み込むと、今の負動産の問題の1つは、所有権放棄の法律がない点です。相続放棄をしようと思ったら、他の相続財産も含めて放棄しなければいけないので、なかなか難しい。負動産を相続したら負担するほかないというのが現状です。

そしてもう1つの問題点は、地価のベースとなっている国土交通省の地価公示価格が、取引がある標準地だけで評価して、計算していることです。つまり、普通に取引されない、維持費の方がかかるといった負動産は全く想定していません。その結果、実際の取引価格と大きな乖離が起きています

財務省のデータでも、人気のない土地の実際の成約価格と相続税評価額に90%以上差があると出ています。つまり、相続税評価額から9割ぐらい値引きしないと実際には取引されないというのが実状です。

さらに、国税庁の財産評価基本通達では、使いづらい形状の土地について一定の減額措置があります。ただ、実際の市場価格との差が大きい土地では、現行の補正だけでは実態に十分追いつかないケースもあります。

つまり、今国がやるべきことは93%値引きでもいいけど、同時に実態に全く合っていない財産評価基本通達や、そのベースとなる地価公示価格も見直すべきじゃないか。特に財産評価基本通達は財務省が自分で決められるわけですから、土地で困っている理財局が、主税局に言って変えてもらうのが先じゃないかと強く思います。

2年後の見直しで何が変わる?

この相続土地国庫帰属制度は、開始から5年後に見直しが予定されています。2023年にスタートしたので、見直しは2028年です。見直しの検討について議事録などを見ると、「法務局や財務省などで土地を受け入れるかどうかの目線を統一すべき」「国庫に帰属する前に民間取引を義務化する」「負担金の引き上げ」といった話などが出ています。結局、いかにすれば国が引き取らずにすむかという話が今は上がっているのです。

そして、大きな矛盾が発生している「財産評価基本通達の見直し」も大事なポイントになってきます。ただそうなると、そもそもの地価公示価格の見直しも検討することになります。そして、地価公示価格をベースにする固定資産税が減少することになります。固定資産税は、地方自治体の大きな収入源ですから、おそらく市区町村は猛反対するでしょう。

そもそも今使われていない土地や、みんなが扱いに困っている土地がある。「国家として国の土地をどうしていきたいのか」を考えなければならない時代に入っていると思います。
というわけで2026年7月11日時点の情報でした。
よかったら今後ともごひいきに。ば~い、ば〜い!