熱戦が繰り広げられている、平昌オリンピック。選手の応援をするユイに対して、タカシが着目するのはやっぱり、「アスリートを支える会社」。オリンピックにまでビジネスの話? とあきれるユイ。果たしてタカシの熱弁は、ユイを感動させることができるのか?
ユイ
今日はいよいよ羽生結弦くんのフィギュアスケート。ケガが心配で、いても立ってもいられない! タカシ君は平昌オリンピック、観てる?
タカシ
もちろん! 楽しみなのは、女子カーリングかな。
タカシ君、北海道出身だもんね。日本代表の「ロコ・ソラーレ(LS北見)」は、北海道北見市の地元っ子だけで作ったチーム。地方から世界への挑戦って感じで、応援したくなる。
「氷上のチェス」と呼ばれる頭脳戦が、いいんだよね。繊細な競技だけに、道具が大切。LS北見が使用するグローブは、「 クラレ 」が開発し、1人1人の手のサイズに合わせた特注品だ。使われている素材は、クラレが世界で初めて事業化に成功した人工皮革「クラリーノ」。軽くて丈夫で水に強く、国内のランドセルの7割がクラリーノで作られるほど、使いやすい素材なんだ。
クラレって、アルパカが出てくる「ミラバケッソ」のCMの会社?
そう。ミラバケッソの意味は、「未来に化ける素材」。1926年、当時の先端繊維だったレーヨンの事業化を目指して設立されたクラレは、「世のため人のため、他人のやれないことをやる」という社風で独自の新素材をどんどん開発。液晶ディスプレイの偏光フィルムに必須の光学用ポバールフィルム(世界シェア80%)や、食品包材に使われるエバール(世界シェア65%)など、世界ナンバーワン・オンリーワンの素材をたくさん持っている。
産業の川上を押さえれば、間違いない。産業構造の変化にも耐え抜きそうな会社ね。……って、なんでまたオリンピックから、ビジネスの話になるわけ?
五輪はメーカーの祭典でもある
競技はアスリート1人で成り立っているわけじゃない。もちろん、アスリートの才能と努力があってこそだけど、経済的に支えるスポンサーや、能力を発揮するための道具を開発するメーカー、地味だけどいろんな人たちに支えられているんだ。
そりゃ、そうだけど。
たとえば、スキーのジャンプスーツ。これは素材やサイズ、パーツ数に至るまで厳しいルールがあって、しかも毎年変わる。直前までミリ単位で修正する、大変な作業を要するんだ。そんな細かいオーダーに応えて、レジェンド・葛西紀明をはじめ、日本の選手に頼られているのが、スポーツ用品メーカーの「 ミズノ 」だ。
ミズノって野球のイメージが強いけど、ウィンタースポーツも手がけているのね。
スピードスケートのウェアも、ミズノだよ。小平奈緒や高木美帆らが使うウェアは、「JAPAN」という金色の文字が入ったもの。張りの強さ、空気抵抗など、あらゆる要素を検討して開発され、勝利への思いを込めて「栄光への光」と名付けられた。ミズノの創業は、1906年。まだスポーツが日本に浸透していない明治時代から、創業者・水野利八の「ええもん作んなはれや」を原点に、さまざまなスポーツ用品を手がけてきた。「より良いスポーツ品とスポーツの振興を通じて社会に貢献する」という経営理念を、五輪でも発揮しているんだね。
メーカーにとっても、4年に一度、自分たちの力を試す機会なのね。
アルペンスキーの日本のエース・湯浅直樹がいい例だ。実は湯浅の活躍には、「メイドインジャパン」の意地がかかっている。
へえ〜。日本製のスキーを使っているの?
その通り。海外ブランドのスキーを使う選手が多いなか、湯浅は「 アルペン 」のスキー板「Hart」を使って、世界一になることを目指している。アルペンは、1972年に15坪のスキーショップから始まった会社。スキー用品を中心に、プライベートブランドの開発も手がけて徐々に売上を伸ばし、1997年、国内有数のスキーメーカーだったヤマハがスキー部門から撤退するときに技術を譲り受け、一気に性能を上げた。日本人のニーズに応える商品を提供するために、国内での企画・開発にこだわり、細かいケアで選手の活躍を支えているんだ。
「もう1つの戦い」にも注目
平昌はオリンピックだけじゃない。3月9日から始まるパラリンピックも、僕は楽しみにしているよ。
どんな選手が出るのかしら。オリンピックのニュースは見ていたけど。
パラリンピックを知らないなんて、もったいない! 個性豊かな一流アスリートがたくさんいるんだから。障がい者ノルディックスキーの新田佳浩はその筆頭だ。3歳のころ、祖父が運転するコンバインに巻き込まれて左腕を切断。負い目を感じる祖父のために競技人生に入り、2010年バンクーバー五輪で金メダル2つを獲得した。ソチではメダルを逃したけど、今回は再び息子のために、メダルを目指して厳しいトレーニングを積んできた。
すごい人生ね……。ちょっと聞いただけでも、競技を見たくなった。
支援するのは、「 日立製作所 」のグループ会社「日立ソリューションズ」。障がい者スポーツはまだまだ競技人口が少なく、資金やサポート体制も厳しい状況にある。新田のように強い思いを持っていても、続けることが難しい選手も多いんだ。そこで日立ソリューションズは、2004年、社内に「障がい者スキー部」を設立した。障がい者スキーで日本の企業がスポンサーになるのは、初めてのこと。
日立って、電気機械の超老舗でしょ。いまでは高機能材料から、情報通信システム、金融サービスまで幅広い事業を手掛けて、グループ連結売上が約9.1兆円、グループ従業員約30.4万人を抱えるマンモス企業に成長している。社会的に大きな影響力を持つ会社が、障がい者スポーツを大切にするって、いい話だわ。
ホンダ系部品メーカー「 八千代工業 」も知ってほしいな。自動車の燃料タンクとサンルーフが主力製品で、福祉車両の開発も行っている。すごいのは、トップアスリート向け競技用車いす「極(きわみ)」。同社に所属する車いすマラソン女子の第一人者・土田和歌子が愛用するマシンだ。「1秒でも速く」「風をきって走る喜び」を理念に、アルミより軽く、かつ頑丈な独自の炭素繊維を使って開発している。
特殊な研究開発が、一般車の開発にも活きるんでしょうね。
うん、相乗効果があるだろうね。八千代工業は自動車の軽量化に役立つ先端素材を研究しているから、アスリートの厳しい要望に応えることで、その技術を磨けるだろう。アスリートの土田は、世界を舞台に20年以上戦うベテラン選手。日本人として初めて夏・冬パラリンピック金メダリストを制覇し、今年に入ってパラトライアスロンへの転向を発表した。平昌には出ないけど、2020年東京パラリンピックに向けて、不屈の闘志が見られるはずだ。
パラリンピックも、面白そう!
苦難を乗り越え、限界に挑む。障がいがあるというだけで、アスリートとしての姿勢はみんな同じ。すごく励まされるし、パラリンピックにももっと注目してほしいな。
そうね。オリンピックが終わっても、五輪は続く。楽しみが1つ増えたわ。
そう言ってくれて、良かった。
私はミーハーだけど、タカシ君といるといつも大事なことに気づかされるのよね。これからも、一緒にいたい。
え、それってもしかして……?!
あとは、自分で考えてね!
え、恋愛は苦手分野だから、むしろ教えてほしいんだけど……!
今回のテーマで取り上げた上場企業
クラレ
ミズノ
アルペン
日立製作所
八千代工業